第9話(#21) 負けるもんか

ライトノベル

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    一月も半ば、ハコネの山を抜ける道の傍らには雪が残り、行き交う人々の息は昼間でも白かった。急角度のワインディングを抜けたワンボックスカーが、ウインカーを点滅させながらゆっくりと停車する。「ここね」スライドドアを開け、ワンボックスカーから降りた…

  • 2

    「さて」六人分の布団が敷ける、広い和室。真ん中に置かれた座卓を囲んで、《すーぱーあゆみんミニ四チーム》に秀美を加えた六人が座っている。奏は全員を見回してから、ミーティングを始めた。「今回、急に合宿をすることにしたのは、他でもありません。今月…

  • 3

    結局、ミーティングは一時中断となり、六人で連れ立って浴場へと向かう事となった。「大浴場」と呼ぶにはコンパクトで、十人も入れば手狭になりそうだった。立ち込める蒸気に包まれながら、秀美は黙々と髪を、体を洗っていく。その背後ではたくみを中心に絶え…

  • 4

    部屋に戻ると、案内されていた夕食の時間が近づいていた。食事は玄関ロビー近くの食堂が会場となるため、六人は慌ただしく身支度を整えて、部屋を出ていく。「会長」たまおが、奏に声をかける。使い込まれたスリッパの音が、けたたましく廊下に響いている。「…

  • 5

    「ほう……ここで赤井に会うとはな」すでに食事を始めていたもう一組の団体、「《ミニ四駆選手権》出場チーム」の一人が、秀美を見て言った。床につきそうなほど長く伸びた髪の間から、するどい眼光がのぞく。「それはこっちのセリフだ、氷室」秀美が負けじと…

  • 6

    「ねー、会長、どうするんです?」「会長……さすがに、何と言えばよいか……」たまおとたくみの、冷たい声が部屋に響く。責められる側の奏は、布団をかぶって部屋の隅で小さくなっていた。「大会前に他チームと練習試合とは、自分たちのポテンシャルをわざわ…

  • 7

    《すーぱーあゆみんミニ四チーム》のメンバーがラウンジに向かうと、すでに《フロスト・ゼミナール》の五人の姿があった。浴衣の女子中学生が集まり、傍から見れば温泉卓球でも始めるようにしか思えない。だが、彼女たちの間には張り詰めた空気が存在していた…

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    氷室選手が選択したサーキットは、メキシコのクラシックコースである《エルマノス・ロドリゲスサーキット》だった。標高二五〇〇メートルの高地に位置するサーキットは空気の密度が低いため、パワーユニットの出力や空力効果が他のサーキットとは異なる特性を…

  • 9

    オープニングラップで三台をかわしたジオグライダーが、その後もハイペースを保って順位を上げている。出走した五台のうち唯一の大径バレルタイヤ装着車は、バックストレートから最終コーナーで最高速に達し、先行するマシンを次々と追い抜いていく。後方では…

  • 10

    オープニングラップで三台をかわしたジオグライダーが、その後もハイペースを保って順位を上げている。出走した五台のうち唯一の大径バレルタイヤ装着車は、バックストレートから最終コーナーで最高速に達し、先行するマシンを次々と追い抜いていく。後方では…

  • 11

    序盤に隊列を引っ張った、久美子のラップはオーバーペースであった。終盤にきて蘭との差は一周につき一秒以上開いていく。それは奏のエアロアバンテも同様だった。「これが、《フロスト・ゼミナール》のチームワーク……」いちメンバーである久美子は、《すー…

  • 12

    仲居さんたちによって、綺麗に布団が敷き詰められた部屋に、《すーぱーあゆみんミニ四チーム》が戻ってきた。「すっげー、布団敷いてくれたんだ」「きゃっ、私の荷物、重ねてほしくなかったわ……」「これは……ポジション取りが重要」たまおとたくみ、そして…

 

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