セレモニーの後は、会場を大会仕様に整備するため、選手は一度隣接するホテルに向かうように指示された。
全国大会は、フクオカ・ナゴヤ・オーサカ、そしてトーキョーの四会場を巡回して行われる。
土曜日の午前中に会場入り、その日の夕方にレースを実施。主催者が用意したホテルで後泊し、翌日の日曜日に解散というのが基本的なスケジュールである。ホテルは会場近くの大型のものがおさえられており、全選手に個室があてがわれている。
あゆみ達は自分の部屋に荷物を置いた後、奏の部屋に集合した。
「なんで、私の部屋なの?」
「だってー、会長の部屋が一番片付いてそうじゃん?」
「同意」
「だったら、猪俣さんの部屋だっていいじゃないの」
「私は……その……荷物が多いから」
「ああ、そういえばそうだったわね……涼川さん……のところは遠慮しとくわ」
「えぇー? どうして?」
「まあ、あんまり時間がないことだし、さっき説明のあったレースの進め方について、もう一度確認しておきましょう。よろしい?」
全員が静かにうなづく。
「ありがと。じゃあ、配られたプリントに沿っていくわね。
まず予選の組み合わせ。私たち、《すーぱーあゆみんミニ四チーム》は《Eブロック》になりました。
同じ組のチームは、ホッカイドー地区代表、チーム《フライング・フレイヤ》。サイタマ地区代表、チーム《サイコジェニー》。そしてキタキューシュー地区代表、チーム《V.A.R.》。全チームとも昨年の決勝ラウンドに進出していて、中でも《フライング・フレイヤ》は赤井さんたち《スクーデリア・ミッレ・ミリア》に次ぐ5位でフィニッシュしてる」
「その《フライング・フレイヤ》が最大のライバルというわけですね」
「そう、で、今日、初戦の相手が、その、《フライング・フレイヤ》なのよ」
「えぇー? そりゃ無理だよ!」
「いきなり正念場」
たくみとたまおがひとしきり文句を言い終わるを待って、奏は続けた。
「まあ、全勝するのが勝ち上がる方法じゃないから。上位2チームに入れればいいわけで、やり方はいくらでもあると思うの」
「うーん、そりゃそうだけどさ」
「涼川さん、何か?」
「もちろん、最初から練習だと思って走っても、意味ないよ。練習にすらならない。とにかく全力で、やり残しのないように、ひとつひとつ戦っていこう」
あゆみの言葉に、4人は静かに、深くうなづいた。
「で……、レースってどういうやり方なの?」
「ちょっと涼川さん、今それ聞く?」
「だって、説明されてないし」
拍子抜けした奏が、メガネの位置を直す。
「わかりました、じゃあ続けてレースの方式を確認しましょうか。
予選ラウンドは各チーム5台全部が出走、全10台でのレースを行います。スタート順はタイムアタック等は行わず、くじ引きで決まるそうよ」
「え? それってどういうこと?」
ベッドの上に座っていたたくみが、身を乗り出す。
「くじ引きで当たりを引いたチームが、イン側の列かアウト側の列か、好きな方を選べる。で、その反対側が相手チーム。要するにチームごとに奇数グリッドか、偶数グリッドかを決めるってこと」
「じゃあ、チーム内での順位はどうやって決めるんですか?」
「それは、チームで話し合って決めろ、って書いてあるわ」
「そういうことですか……。なかなか難しいですね」
「そうね……。でもルールだから。
続けるわよ。レースはグランプリでも使われるサーキットを使用するけど、どこを使うかは直前までわからない。そこで約300キロのレースをやって、1位の選手のチームに勝ち点《2》がつく。負けた方は《0》。1位が同着の場合は両方のチームに《1》。まあ、あり得ないけどね」
「2位以下の扱いは」
机に肘をつき、組んだ手で顔を隠すようにしてたまおが聞く。
「えーと……。うん、関係なし」
「え?」
組んでいた手が崩れて、たまおも身を乗り出す。
「2位以下にポイントがついてその合計、とかそういう事は一切なし。そう、とにかく1位を、このチームの誰かがとる。それだけがこの予選ラウンドの目的」
「なるほどねぇ……」
あゆみは腕を組んで唸った。
「それともう一つ。《バーサス》に追加の機能がついたそうです」
「追加の機能、ですか?」
備え付けの椅子に腰かけていたルナが、身を乗り出して聞く。
「え、ええ。条件は秘密だけど、一時的にマシンの限界性能を引き上げる、まあ……裏技みたいなものがあるみたい。技の名前は「Z(ズィー)・テクノロジー」略して「ズィーテック」」
「使ったら、一体どうなるんですか?」
「具体的なことは何も知らされてない。ただ《限界性能を引き上げる》とあるだけ」
「はぁ……何だかよくわかりませんね」
「当てにはできないわね。あるいは、これの使い方を覚えたチームが決勝に近づくのかもしれないけど。……とりあえず以上ね」
奏が書類をめくる音が、部屋の中に響いた。皆、未経験のフィールドに踏み出すことへの戸惑いを感じていた。うつむき加減の少女たちを見回して、あゆみは立ちあがった。
「これから始まるレースに参加できるのは、あたしたちを含めて20チームだけ」
窓に歩を進めると、眼下にハカタ湾、そして玄界灘の荒波が見えた。さらにその向こう、水平線が白いモヤの向こうに横たわっている。
「ここまでたどり着けなかったチーム、川崎さんや藤沢さん、ゆのちゃん、そしてエンプレス。みんなが、みんなの想いがあたしたちを支えてくれる。だから、全力で行こうよ。何も心配することはないから」
振り返って、あゆみは笑った。
「涼川さん……」
「あゆみちゃん」
「あゆみ」
「あゆみ!」
「よし、行こう! 新しいレースが、あたしたちを待ってる!」
