予選ラウンド初戦の夜。各チームはワカタカドームに隣接するホテルに一泊し、翌朝解散となっている。勝ったチームは祝勝会、負けたチームは反省会をそれぞれ始めていた。
そんな中、瀬名アイリーンは、最上階にある展望フロアにいた。窓の外には、静かな海が広がっている。海と夜空の境界線を、アイリーンは厳しい顔で見つめていた。
「瀬名、やっぱりここか」
長い髪の少女が、背後から肩をたたく。
「さっがしたよ~。まあ、ここかな~って思っちゃったけどね~」
赤いセルフレームの眼鏡が目立つ少女がアイリーンの隣に躍り出る。
「氷室、マンちゃん」
「瀬名っち、外でマンちゃんって呼ばないでくれる?」
眼鏡の少女、万代尚子は腕を組み、オーバーな動きで不満を伝える。
「まあ、今さら万代(ましろ)などと改まって呼ぶのも奇妙だ」
「何だよ~じゃあ《らんち》のことも教授って呼ぶぞー」
「私は、それで構わん」
「ぶー」
長髪の少女、氷室蘭は口元に手を当てて、控えめに笑った。その様子を見て、アイリーンも微笑む。
「二人とも、元気そうでよかった。その分だと、初戦突破ってところね」
「もちろ~ん」
「当然だ」
「そっか……。」
アイリーンは二人には目を向けず、また窓の外を眺めた。
「Dブロックは日下のチームと森野のチームが勝った。まあ順当だな」
「で、Eブロックは……っと」
「どうなった?」
アイリーンが急に振り返ったので、尚子は反射的に一歩退く。
「え? どうした?」
「カナガワの、《ナントカあゆみチーム》はどうした?」
「《すーぱーあゆみんミニ四チーム》。ふざけた名前だ」
「結果は知ってるのか?」
「うむ。負けてるな。羽根木が勝ったようだが、ファイナルラップで何とかかわしたってところらしい。しかも二位、三位、四位はその《あゆみん》チームが占めてる」
「へぇ。初出場にしちゃやるじゃん」
「そうか……わかった。ありがとう」
アイリーンは、大きく息をついた。
「瀬名、その《すーぱーあゆみんミニ四チーム》に何かあるのか?」
「そうだよ~気になる~」
「そのチームのキャプテン、涼川あゆみは……」
「は?」
「何なんだ」
「……いや、なんでもない」
「何だよー!」
「うーん……まあ、話しづらいのなら無理に話すことはない。何といってもカナガワ地区代表ということは、赤井を破ったチームということだ。決勝に上がってきたら色々厄介かもしれない」
「若い芽はつぶしとこう!」
「ブロックが違うから無理だな」
「なんだよーらんち―!」
ふざける二人につられて、アイリーンも小さく笑った。それでも、胸の奥にあるものが刺激され、うずいているのを確かに感じていた。
涼川あゆみ。参加全チームのリストを見ていて、その名前に目が留まった。登録されている顔写真を見て、瞬間、息が止まった。
ヤムラ本社で、風に飛ばされた帽子を捕まえた少女。レーシングカーに囲まれた中で、涼川あゆみに出会ったのは、運命のいたずらなのか、仕組まれた必然なのか。
《パパ……。これは涼川と、涼川あゆみと、戦えってことなの……?》
