SECTOR-2 :KANADE-1

生徒会長たるもの、学生から嫌われるのも仕方がない、とは思うけど。。
気がつけばあいつにリダイヤルしていた。。

「うん。。うん、そういうことで。昼間も突然で悪かったわね」
『ま、こっちのプラス1ポイントってことにしとく』
「うん」
「じゃあ明日、ウチの学校の『バーサス』持って行かせてもらうわ」
「ありがとう」
『そんなに意地張んなくてもいいんじゃない? 楽しくやれればそれでいいじゃない? 楽しくやれれば、それでいいと思うけど』
「そういうわけにもいかないのよ。。」
『ま、行かせてもらうわ。それと、あなたのことも待ってるから』
「うん。。」

私は通話を終わらせ、スマホをベッドの上に置いた。
自分の部屋の空気は蒸し暑く、開け放した窓から入る空気も熱気を帯びている。
全寮制で相部屋が基本だけど、生徒会長特権とやらで、私には一人部屋があてがわれている。
枕元に置いた書類をつかむ。

部活動新設届出書

よく言えば勢いのある、悪く言えば乱暴な字でかかれた1枚の紙。

○設立を希望する理由
 ミニ四駆は発売から30年を越える模型自動車のホビーです。
最近では、クルマの性能を読み取り、バーチャル空間でのレースをシミュレーションする《バーサス》という機械が開発され、女子中学生が参加できる大会も開かれています。
私は、トゥインクル学園にミニ四駆の速さをみがく部をつくり、選手権への出場資格をもらって大会に出場します。
そして、勝ち、全国大会に出場し、トゥインクル学園を最強のミニ四駆中学にしたいと考えています。

○部長
 2年Z組 涼川あゆみ

○部員
(空欄)

○顧問
名前、印鑑あり

確かに、書類にはなんの不備もない。いや元々部の新設に関して明確なルールはなかった。それを、あのあゆみという子は乗り越えて、校則を読み込み理解した上で動いている。

この書類も、どうせ無理だと思って吹っかけたつもりが、きちんと作ってきてしまった。

でも、許したくはない。

ミニ四駆は、あくまで趣味の範囲でやるものではないのか?
勝ち負けにこだわるからこそ、痛みや苦しみもまた生まれるのではないか?

部屋に目を移すと、ポータブルピットに突っ込んで、クローゼットの奥に押し込んだ、《それ》の気配を感じる。ただのプラスチックのカタマリのはずなのに、《それ》はみずから熱を持っている。そう、感じる。

「やっぱり、逃げられないのかな」

私は、ベッドにからだをあずけた。柔らかなスプリングがぐっと縮んで受け止めてくれる。

「この、熱気から」

独りごちたとき、吹き込んできた風に、カーテンが揺れて広がった。。