Sector-4:AYUMI-2

会長の勝ちたいって気持ち、わかった。伝わった。
だから一緒に、ミニ四駆部として走ってほしい!

「おいしそう~!」

前戸さんは、あたしにはソーダを混ぜた「シンデレラ」を作ってくれた。学食のメロンソーダとはくらべようもない。さすがバーテンダーさん!
そんなあたしを、会長は腕組みしてみている。

「あなたもあなただけど、秀美も口が軽いわね」
「そういえば『こないだの1ポイントを使わせてもらった』って言ってましたけど、何のことですかね」
「あぁ……」

会長は頭を抱えた。その傍らには、エアロアバンテが置かれている。

会長は渋りながらも話してくれた。
かつて女子小学生チューナーとして認めあっていた二人。ただ、マシンが速くなるほどに実力の差があらわれはじめてしまった。
卒業間近の3月、会長が挑んだレース。そこで負けたら二人でチューンするのはやめる。そう決意した会長が用意した、当時の最新マシン。それが……

「エアロアバンテですか……」
「秀美が、パワーダウン寸前のバッテリーを用意してきたのはすぐわかった。でもエアロアバンテはコースアウト」
「それが最後のレース」
「情けなくて。同情されたのに、その気持ちにも答えられなくて」
「でも、キレイにメンテしてありますね」

駆動系のクリアランスは適度に確保されているし、ビスのゆるみもない。何よりホコリもなく磨かれたボディが、決して放置されていたマシンじゃないことを知らせてくる。

「モーターだけちょっと厳しいかな……」

あたしはバッグからモーターケースを取り出し、ブルーのエンドベルがあしらわれたモーターを取り出した。

「それは? 片軸のモーターでは見ない色だけど?」
「レブチューン2です。まだ発売されたばかりですけど、そこそこ速いですよ」

シャーシの下面、ディフューザーを模したパネルを開けて、モーターを交換する。パキッというかたい音が、このマシンがまだ十分に走れることを教えてくれる。

「よし、じゃあいきましょう!」
「え、どこに?」
「決まってますよ、『バーサス』のサーキットにです!」
「え、もう出てくの……」
「大丈夫ですよ、テスト中心のコースを選びますから、勝負をしかけられることはほとんどないはずです」
「そうなの……」
「そして、会長がわがミニ四駆部の部員第一号です!」
「はぁっ!? 『そして』って言われてもわかんないけど」
「いや、そうじゃないと困りますよ。またネットワーク貸してほしいんですから。
それに、赤井さんのこと。
会長ひとりじゃなく、私や、これから入ってくるチューナーが力を合わせれば、赤井さんにまたレースを挑んで、今度は絶対に勝てますって!」

あたしは言葉とともに顔をつきだす。鼻息で会長のメガネがくもった。

「顔が近い」

会長は後頭部をわしわしとかき、息をひとつついてから、言った。

「まぁ……いいわ」
「ありがとうございます! じゃあ早速!」

言う前にあたしは、カウンターの『バーサス』を起動させた!