SECTOR-1:AYUMI-1

きっぱりと夜は明けた。
ヨコハマ港に昇る朝日が、街を、そしてあたしを照らす。ついにこの日がきた!

みなとみらい。
未来は、追いかけ続けても追い付くことのできない場所。だからこそ追いかけ続けなければならない、追いかけたいもの。そんな名前がつけられたヨコハマの観光地。その奥に建っているイベントスペース、パシフィコヨコハマ。4つあるホールのうち半分をつなげてつくられた場所で、「ミニ四駆選手権」カナガワ地区予選は開催される。

昨日は早めに寝てしっかり休もうと思ったけど、その分結局早く起きちゃった。でもじっとなんかしてられないから、ほとんど始発の電車に乗って、ここまできてしまった。会場になる建物にはまだ入れないから、デッキの上からみなとみらいの景色、そして名前の由来にもなってるヨコハマ港を眺めてる。
朝日が昇る。スイカを切って並べたようなホテル、天高くそびえるタワービル、かすかに揺れている海、そしてあたしの顔を、あたたかい光が照らしてゆく。
この日をこうして迎えられたことが、本当に信じられない。たった2か月前までは、あたしの周りには誰もいなかった。でも勇気を出して、部活にしよう、選手権を目指そうと思った日から、全てが動いたんだ。ひとつひとつのできごとがつながっていて、どれかひとつが欠けてもここまではこれなかった。

「……ありがとう」

口をついて出た言葉がすべてだ。
あたしの、ただ単純に、好きなことでは負けたくない、ナンバーワンになりたいっていう思いが、会長、ルナ、早乙女ズ、そして女帝:赤井さんとのつながりを導いてくれた。
一人だけではレースにならない。グランプリレースは、よくサーカスにたとえられる。世界中を、同じメンバーで旅していく。その選ばれたレーサーたちが、本当に命をかけたレースを見せて、次の国へ移動する。
ミニ四駆も同じ。受け入れてくれる運営の人たちと、あたしたちチューナー、それだけじゃない、レースにかかわるたくさんのひとたちが、イベントを作り、成功させるために動いている。
だからこそ、その輪の中で輝きたい。あたしの、あたしたちの速さを証明したい。
胸の前で手を握る。
勝とう。やってみるとか、全力を出すんだとか、楽しもうとかじゃない。今はもう、地区予選に勝つための、《女帝》に勝つためのことしか考えてない。そのための準備はしてきた。自信はある。
でも、あたしだけでレースをするんじゃないってことも、十分にわかってる。

「あゆみちゃーん!」
「あゆみ、ちょっと早すぎじゃない?」

遠くから声がする。顔をあげると、ルナと会長が走ってくるのが見えた。ポケットからスマホを取り出すと、数分前の不在着信がたまっていた。たまおからも着信が入ってる。

「うん! 行こう!」

あたしは二人の方へかけていった。