Virtual Circuit Streamer <V.S.> Activate…
-COURSE: Circuit de Spa-Francorchamps
-LENGTH:7.004km
-LAPS:44
-WEATHER: Cloudy
-CONDITION: Half Wet
Girls, START YOUR MOTOR.
FORMATION LAP ENDED…
Signals all red…
Black out!
GO!
LAP1/44
午後5時、レーススタート。10台のマシンが1コーナー、鋭角の《ラ・ソース》に飛び込んでいく。インサイドからスタートの涼川選手のエアロサンダーショットが際どくトップを守り、オー・ルージュへ。2番手には羽根木選手のジルボルフがつけ、恩田選手のエアロアバンテもそれに続く。
オー・ルージュを立ち上がったストレートでは3台が並走するシーンも見られたが、エアロサンダーショットが最高速に勝り、ここでもトップを譲らず。スタート順のままオープニングラップを終えた。
LAP2~10
《バーサス》では珍しいハーフウェット路面に《すーぱーあゆみんミニ四チーム》の各車は苦しむ。5番手につけていた猪俣選手のフェスタジョーヌは、直前を走るフライング・フレイヤのジルボルフ2号車に行く手を阻まれてペースが上がらない。先頭3台との距離が周回ごとに1秒以上離れていく。その後方では2台のコペンと3台のジルボルフによるバトルが繰り広げられたが、下り区間で安定性が足りないコペンは徐々に置き去りにされていく。序盤は涼川・羽根木・恩田の3選手が抜け出すかたちとなった。
LAP11
最長2時間のレース、主催者からの支給ではなく、チームが持ち込んだバッテリーであっても最後までは持たせられないため、途中のピットインが必須とある。
最初に動いたのは意外にも《フライング・フレイヤ》リーダーの羽根木選手だった。天気の変化と路面状態の改善を見越して、バッテリー交換とともにタイヤを固めのスーパーハードタイヤに変更した。羽根木選手は順位を大きく落とし、フェスタジョーヌの後ろ、5番手でコースに復帰する。
LAP12~22
1-2体制を構築した《すーぱーあゆみんミニ四チーム》は、2台で先頭交代を行いながらペースを上げていく。4番手、猪俣選手の指示がうまく働き、5番手、羽根木選手のペースが上がらない。十分なリードを築いた後の21周目、先頭の涼川選手からピットイン。次の周には恩田選手もピットインして1-2体制を堅持。大径タイヤのエアロサンダーショットと、ローハイトタイヤのエアロアバンテ、2台で接近して走行しながら相手の出方をうかがう作戦は、ひとまず機能していた。
LAP23~40
レースが進むにつれて路面の雨水は吹き飛ばされ、半分を超えたところでほぼドライの状況となる。5番手でレースを進めていた羽根木選手が、24周目のケメル・ストレートでフェスタジョーヌをパスすると、チームオーダーに従ってジルボルフ2号車から3番手の座を譲り受ける。それを見て涼川選手、恩田選手ともにペースを上げるが、ノーマルコンパウンドのタイヤでは思うようにペースが上がらない。一時は15秒以上の差があった、羽根木選手のジルボルフと恩田選手のエアロアバンテの差は、40周を終えたところで3秒を切るまでになっていた。残りは4周である。
「くっ……タイヤが……」
奏が見上げるモニターに、エアロアバンテのブルーのボディが映し出される。しかしその背後から、影が立ち上がるがごとくガンメタルのジルボルフが現れる。
ノーマルコンパウンドのタイヤの寿命はほぼレース半分。だがそれは標準的なペースでレースを進めた場合であって、ライバルやチームメイトの走りによって簡単に縮まってしまう。
「会長……!」
スタートから前を塞がれていたジルボルフ2号車をようやくパスし、4番手に上がったルナだったが、羽根木選手のジルボルフまでには10秒以上の開きがある。
「ここからじゃ、もうどうにもできません……あゆみちゃん、会長、ごめんなさい……」
ルナのつぶやきは聞こえていたが、答えずに、奏はじっとモニターを見つめていた。
「ここで何とか食い止めないと、あいつが涼川さんに追いついちゃう」
小さく息を吸ってから、奏は《バーサス》へコマンドを入力した。
《エアロアバンテ、ペースアップ》
《Copy.》
「会長! 無茶だ! それ以上ペースを上げたらタイヤが終わる!」
あゆみが叫ぶ。
「要はトップを取らせなきゃいいんだから。もう私にできることはそんなにないみたい」
エアロアバンテとジルボルフの間隔がやや開いて、下りの区間に入っていく。左右に振られる高速コーナーではグリップが限界に達し、アウト側に車体が滑っていく。その隙をついてジルボルフがオーバーテイクの素振りを見せてくる。
「遊んでるの……? ふざけないでよね!」
下りきってのシケイン、大きな白煙を上げながらのブレーキング。後ろにつけていたジルボルフはアウトに振ってエアロアバンテを避ける。最終コーナーを立ち上がり、コントロールラインを通過。残りは3周。
「よし、このまま持ちこたえて!」
ホームストレートの真ん中をエアロアバンテが進む。ジルボルフとの間隔は広がった。しかし、これ以上の激しい走りに、ノーマルタイヤは耐えられなかった。一コーナーのヘアピンへの進入。エアロアバンテは右へのターンインと同時にグリップを失う。
「ダメかっ……!」
「会長!」
あゆみ、ルナ、たまお、たくみ、全員が同時に声を上げる。スピンしたエアロアバンテは一回転しながら、立ち上る白煙に包まれた。その脇をジルボルフが通り過ぎていく。奏は、2番手の座を明け渡した。
スーパーハードタイヤのロングライフにものを言わせて、ジルボルフが差を詰める。エアロサンダーショットもペースを上げるが、グリップ不足でコーナーでの踏ん張りがきかない。下りの連続コーナーを終え、最終のシケインを立ち上がった時にはすでにテール・トゥ・ノーズの態勢となっていた。
「あと2周……」
バイザーの奥、あゆみの表情は険しい。高速の上りコーナー、《オー・ルージュ》を駆けのぼって《ケメル・ストレート》に入る。
「ここで前に出られたら終わりだ! エアロサンダーショット、早めにレコードラインをつぶすんだ!」
《Copy.》
ストレートエンドのシケインに向けての理想的なライン。エアロサンダーショットは早め早めにラインをふさぎ、ジルボルフをけん制する。ガンメタルの車体がインをうかがうが、シケインの飛び込みで前をとられ、オーバーテイクには至らない。
下りの高速コーナーでも、エアロサンダーショットは前を走る。最速のラインではないが、相手を封じ込めるための走りが続く。ジルボルフはそのペースに巻き込まれるのを嫌ってか、やや後方に下がる。1秒以下の差で、ファイナルラップに突入した。
「ん? 周回遅れ?」
ジルボルフに気を取られ、あゆみは前方の確認を忘れていた。
グリーンの車体とブルーの車体。あたかも双方、肩を取り合って走っているように見える。
「たまお! たくみ!」
「あゆみ……」
「おーい、はやく抜いてってよ」
すでに2台のコペンとエアロサンダーショットの差は0.5秒以下。ジルボルフを含めて、4台が縦に連なって最後のオー・ルージュを駆けのぼっていく。
「よし、たまお、たくみ、イン側のラインをとれ!」
「えっ?」
「あたしは外を走る! このストレート、3台並んで走るのは無理だ!」
「了解」
ストレートの入り口、コペン2台が連なって走る。その後ろで十分に加速したエアロサンダーショットは、弾かれるようにアウト側のラインをとった。
「どうだ!」
《それで、勝ったつもり?》
インカムから、ノイズ交じりの声が聞こえた。
「羽根木、美香!」
《そのつもりはなかったけど、見せてあげるわ。
Z-TEC(ズィーテック)、スタンバイ!》
美香の声に呼応して、ジルボルフに描かれたオオカミ……いや、白銀の神獣が青白い光を発した。
「これが……Z-TEC……」
「何がおきるの?」
ジルボルフを追走していた奏、ルナもその光に目を細める。
……神々の 黄昏の中 目を覚ます
天をも喰らう 猛き獣
いま、すべてを解き放て!
ファングス・オブ・フェンリル!!
ジルボルフの車体が、インサイドへ入る。片側の車輪はコース外、芝生の上に落ちているが車体のバランスを崩すことなく加速していく。たまおのコペンRMZのフェンダーがジルボルフに接するが、勢いを止めることはできない。
「させるかっ!」
たくみのコペンXMZが進路をイン側に寄せるが、それよりも早くジルボルフは前に出た。乱れた気流に足回りを乱され、コペンXMZはバランスを崩す。
「う、うわあっ!」
エアロサンダーショットに並ぶ間もなくジルボルフはシケインに進入。強力なブレーキングにも関わらず、タイヤはしっかりとグリップして車体をコースに押しとどめている。ついに《フライング・フレイヤ》が《すーぱーあゆみんミニ四チーム》の前に立った。
既に、《すーぱーあゆみんミニ四チーム》のどのマシンにも、ペースを上げる余力は残っていない。あゆみが呆然としている間に、ジルボルフは3秒以上先行してチェッカーフラッグを受けた。
「くっ……」
言葉にならない悔しさが、あゆみの中からあふれてくる。
「羽根木さん以外は何とか抑えきれたけれど」
憔悴した顔で、奏がバイザーを外す。
「それでも、二位、三位、四位じゃ、意味がありません」
ルナの瞳が涙に揺れている。
たまお、たくみは深くため息をついたきり、言葉もなく撤収の用意を始めていた。
《すーぱーあゆみんミニ四チーム》の初戦は、ファイナルラップでの逆転負けに終わった。
