Sector-4 :HIDEMI-2

雨が来る。
わかっていたはずだけど、乱れる自分がいやだ……。

オープンクラス、午後の予選が始まると空模様はさらに悪くなっていった。
日の照っているときは汗ばむようだったのに、今はもう半袖ではいられないほど涼しい、いや寒い。
ほとんどの公式大会の会場は、屋内であったり、外の場合でも一部に屋根があったりするのだが、この会場は雨風を防げるところが一切ない。そのため、事前に「雨天中止」となることが告知されている。

「降りそうですね……」

目を覚ました涼川さんが言って、ひとつクシャミをする。その様子を見て、奏がティッシュを差し出す。トゥインクル学園は、どうにかチームができてきたみたいだ。その事は純粋に喜びたいと思う。

「涼川さん、もし途中までやって、雨が降ってきたら」
「その時は中止ですよ、スパっと」
「じゃあ、二人の予選通過はどこかで振り替えたりとか」
「奏ごめん、そんな便利な仕組みはないわ」
「じゃあ……」

嫌なヤツだと自分でも思う。どうにもならないことへのイライラを他人にぶつけたくはない。
それでも時間が迫っていることへの不安が、気持ちをザラつかせてしまう。
耐えられずに立ち上がる。視線の先、コース脇の車検上には、オトナたちの列が絶えることなく続いている。お金も、時間もいくらでもあるだろう、わざわざこんな日に出てこなくてもいい、悪態をつく自分の中の悪魔をコントロールする。それができなければ勝負はできない。

「ごめん、ちょっと」
「あ、秀美!」

奏に背を向けて、私は走り出した。
人波の向こうに、護岸に囲まれた海がある。もちろん、波もないし水も汚い。それでも、それだからこそ今の私には救いになる。
乱れた呼吸を落ち着けようと、息を吸い、吐き出す。
プレッシャーで取り乱してしまう。普段はやらないようなこと、ギヤカバーのスナップ不足や電池の交換忘れ、ビスのゆるみ。いままで勝てなかった理由は単純なものだ。自分がまだ「ジュニア」であるがゆえのミス。決して認めたくないけど、事実は事実だ。
会場ではコンクールデレガンスが始まったのだろう、闘争心をかりたてるような曲は止み、牧歌的な曲がエンドレスで流れ始めた。それはまだまだ、オープンクラスの二次予選が始まらないことにもつながるのだが、まあ、今はそれすらも救いにしたい。
戻ろう。今はひとりじゃなくて、涼川さんや奏、いずれ戦わなければならないけど、おなじ場所をめざすともだちがいる。
振り返ったとき、わたしの鼻先に冷たいものが落ちた。