Sector-5 :AYUMI-2

こんな終わり方を受け止めたくない。
それは《女帝》も一緒のはず。だけど言葉は違った。

雨が落ちてきた。
まだ弱いけれど、つみ重なった黒い雲は陽の光を完全にさえぎっている。スマホのニュースを見ると、お台場には大雨注意報が発表されている。
大雨が「警報」レベルにまでなったら、とう大会はやっていられない。なんと言ってもタダでやっているイベントだ。万が一事故が起こったら続けていけなくなる。早めに決めなければならないのはわかる。でも、それで本当にいいんだろうか。
車検に並ぶ大人たちは、準備よくビニール傘をさしている。もしこの大会が中止になっても、この中のけっこうな数が次に開かれる地方大会に行くんだろうし、東京でやる秋の大会に参加することだってできる。でもあたしたちにとっては、次にいつ出られるかわからないし、突然最後になっちゃうかもしれない。

「けっこう降ってきたわね」
気がつくと、髪の毛ごしに雨粒をしっかりと感じるようになっていた。雷の音が、遠くに聞こえる。まるで怪獣がうなっているように。
「あれ? 秀美、どこにいってたのかしら」
「赤井さん……」

あたしたちには目もくれず、一点を見据えて《女帝》がいく。ただ、その様子はあまりにも悲しい。

「あたし、いってきます」
「ん、わかった。私はここにいるわ」

踏み出した足の下で水が弾ける。雨の量はこの数分で急に増えてきた。ゲリラ豪雨ってヤツだろう。足元のコンクリートは水を吸うこともできず、いくつもの水溜まりができてきた。あちこちで人が慌ただしく動く。雨の音、ビニールシートを畳む音、傘を開く音。

「赤井さん!」
「どうしたの、風邪引くから奏と一緒に建物に入ってた方がいいわ」
「そんなことより、赤井さんはどこに行くんです?」
「え? 大会の本部に」

あたしは、次の言葉が言えなかった。
ジュニアクラスのレースだけでもやれるように、本部に訴えにいくつもりだ。もうオープンクラスの一次予選がさばき切れないのはわかっている。ならば、数の少ないジュニアクラスをなんとかやらせてほしい。自分のためだけではない、そのふるまい、《女帝》と呼ばれるにふさわしい。

「あの」

片手を上げて声をかけるだけで、スタッフが振り返る。そしてハンチングをかぶったメインらしいスタッフが呼び出されてきた。あたしは、隣で言葉を待った。

「この雨です。早く中止のアナウンスを」
「え、あ、赤井さん!」
「いいのよ。怪我や病気の人がでたら大変でしょ」
「でも」

スタッフの人は、帽子を目深にして一つうなづいてテントの奥へ入っていった。

「仕方ない。仕方ないのよ」

言いながらかがみこんだ背中に、あたしは声をかけることも、手を差し出すこともできなかった。