Sector-1 :AYUMI-1

パパが戦うグランプリレース。
それを見る私に声をかけてきたのは……。

ジャパンカップから帰ってきた夜。あたしはひとり、食堂のテレビを見ていた。
日曜日の夜だから、みんな早く部屋に帰っていくけど、あたしにとってはこれがチャンスなんだな。

テレビには、アスファルトのコース、旗が揺れるスタンド、そして鮮やかでスリムなマシンたち。でも、これはミニ四駆じゃなくて、本物のレーシングカーたち。
日本グランプリ。何もジャパンカップと同じ日にやらなくてもいいとは思ったんだけど、こればっかりはしょうがない。
流れているのは、昼間に行われたレースの録画。だけど地上波で流れるのは久しぶり。それもやっぱり、ヤムラ自動車……そう、パパの会社が復帰したからだろう。
チームの名前はマケラレーン・ヤムラ。ダークグレーのボディに、蛍光レッドの模様が流れるように描かれていて、その先端には「Y」のイニシャルがかたどられたエンブレム。
でも、そのエンブレムも見ていてただただ
つらい。
スタートでジャンプアップしたアローン選手とパットン選手。でもストレートスピードが全然伸びず、後続のマシンに次々抜かれていく。
パワーユニットが他よりも劣るのは明らかだった。『バーサス』でも、バッテリーが切れそうなときにこんな風になる。でもレースはまだ始まったばかりだ。

「ミニヨンク! ミニヨンク・モーター! アアアア!」

テレビから「ミニ四駆」の言葉が聞こえて、あたしは全身が震えた。
アローン選手からチームに向けられた叫びだった。意味は、英語のままでもわかる。「まるでミニ四駆のモーターのようだ」ってことだ。

「しっかりしてよ、パパ……」
「あららら、マケラレーン・ヤムラ……厳しいねえ」

誰もいないと思っていた食堂に、誰かの声が響いた。

「あ、ルナちゃんか……」

眩しいくらいのブロンドの髪が、豊かなカーブを描いてたれている。学年で、いや学園で知らないものはいない、お嬢様、いやいやスーパーお嬢様だ。

「グランプリ、わかるの?」
「うん。だってルナの生まれたセルジナ、じゃなくて名古屋じゃ、自動車は文化だもん」
「そう、そうだね」

むりやりな苦笑い。本人は隠してるつもりでもバレバレなこと。ルナは表向きは名古屋から引っ越してきたってことになってるけど、本当は大きな秘密がある。

「クルマ、好きなの?」

あたしは特に考えもなく聞いた。女子校だから、こんなことを聞くこともめったにない。

「うーん……」

ルナは腕を組んで考え始めた。大きな瞳が開いたり閉じたり、くるくると動く。数秒たってから。

「うん!」
「あ、そう……」

そんな時間が許されるのは、ルナの可愛さからか。視線の先、レースは今一つ盛り上がらないまま進んでいく。
頬杖をついた横顔を見て、あたしは考えた。いや、考えるよりも先に答えが出た。

「ルナちゃん! あしたの放課後、一緒にきてほしいんだ」
「どこに?」
「あたしたちのサーキット、ミニ四駆部よ!」