Sector-FINAL :RUNA-2

やわらかい光の中。
グランプリの記憶が、よみがえってきました。

まだ小学生にもならない頃でしょうか。いまに比べると低い視界。開け放たれた窓の向こうから、大勢の人々の話し声と、エンジンのアイドリング音が聞こえてきます。
見下ろすと、原色、金属色、蛍光色、目がくらむような色の大群。
人だかりがいくつもできている、その中心には、空気の流れをつかまえたかのようなフォルムのマシンたち。屋根のないコクピットには、すでにドライバーがおさまっています。

『母上』

記憶の中のわたしがいいました。

……なあに。
『母上、あのね、あちし、大きくなったら、あのクルマを運転するひとになりたい』
……そう、でも難しいわよ。
『どうして?』
……グランプリに出るためにはもっと下のクラスのレースに勝った、選ばれたひとしかなれないもの。それに力がつよくないと。
『ふーん、じゃあ、ああいうクルマを作る人ならどうかな?』
……あら、それならまだいいかもしれないわね。
『うん、あちし、レースに出られるようなクルマをつくる! つくってみせる!そして勝つよ!』
……そう、じゃあがんばりなさい。

見上げた母上は笑っていて……
「母上!」

気がつくと、わたしは寮のベッドの上にいました。

「ルナちゃん」
「大丈夫ですか? もう本当にびっくりして」

恩田会長と、涼川さんが身を乗り出して私を見ています。そうでした。『バーサス』でミニ四駆のレースをして、無我夢中で、コントロールラインが見えたところまでは覚えていますが。

「大丈夫ですよ」

わたしはベッドから降りました。

「それより、レースはどうでした?もう必死でしたので」

涼川さんを見ると、一瞬目を伏せてから、強い視線とともに言いました。

「ルナちゃんが勝ったよ! 0.125秒差!」
「そうですか。じゃあこれで部に入れてもらえますね」
「え?」

二人は、お互い見合わせてから、わたしを見ました。

「そんな、試験のつもりだったんですか……」
「ううん、いっしょに走らせてくれれば、それで十分」

涼川さんが跳び跳ねて、わたしと会長さんを両腕で抱き寄せました。

「よーし、これで部員3人だ! 明日もう、《ミニ四駆選手権》へのエントリーをしちゃおう!」
「涼川さん、まだ猪股さんが出てくれるとは聞いてないですよ」
「やります! わたしと、フェスタジョーヌで参加させてもらいます!」

あの日みた景色、それは『バーサス』でしっかりと再現されていました。

そして、あの日の夢は思わぬ形で実現しそうです。