Sector-7:TAKUMI-1

このままいけば作戦通り、勝てる!
でも、あゆみの想像力はボクらの上をいってた!

さすが、たま姉。前もっての作戦通り。
オーバーペースで逃げるけど、ファイナルラップの直線で失速させる。そのときにイン側へ切れ込みながらエアロサンダーショットを押さえるから、ボクがアウトから抜いていく。
はたしてその通りになった。バイザーに映るホームストレート、視界の向こうから風の音が近づいてくる。RMZが予定通り、内側へ車体を寄せていく。

「いまだ、コペン、オーバーテイク!」
Copy.

XMZがアウト側から2台を包むように接近する。
光沢をもったメタリックグリーン、プロテクターのようなフラットブラック、質感のコントラストはモケジョとしてのこだわり。わざわざキレイに作ったプラモデルを走らせて、しかもクラッシュさせてしまうなんて、なーんともったいない。ボクはそう思ってる。あゆみも、キレイなプラモをつくるテクをもってるのに、ミニ四駆にのめり込んでいる。なんでだろ。
スローダウンするRMZとの接触を避けようと、エアロサンダーショットが進路を内側にとる。これであゆみはタイムロスして、それで終わりだ。

「そこをどけーっ!」

あゆみの叫ぶ声が聞こえた。
瞬間、エアロサンダーショットが鋭い加速をかけた。このままでは2台が接触する。いくらなんでも、ボク以外の2台がクラッシュしてボクが勝つってのはあんまりだ。そんな風に勝って、《プラモ部》を名乗っても気分が悪い。そんな気持ちとは関係なく、XMZのバンパーが先頭におどりでる。直線はあと500メートル。

「全開!サンダーショット!」
Copy.

あゆみの声とともに、エアロサンダーショットはRMZの懐に飛び込んだ。クラッシュ、と思われたそのとき、フロントにつけられた低摩擦ローラーが、RMZのサイドに接触して回転した。衝撃を受け流し、推進力に変えてエアロサンダーショットは一コーナー、ヘアピンに突っ込む。RMZはたまらずスピン。

「わっ!」
「これがミニ四駆の走りよ!」

ブロックしようとしたXMZにもローラーを接触させて、エアロサンダーショットは先頭を奪った。本当に奪い取った。ボディを、光沢にしあげた塗装面を守ろうとしてしまったボクらの負けだった。
気持ちが切れたとボクらをおいて、あゆみが先頭でゴールした。

「ああ……」

言葉がない、っていうのはこういうことなんだと初めて知った。悔しい、それ以上に悲しかった。脚に力が入らず、しゃがみこんでしまった。

「たくみ」
「たま姉……」
「立ちな。詫びとお礼を」
「あぁ……」

今さら何を謝ればいいのか。あたしがなにもできずにいると、ひゅっ、と風を切る音がして、ボクはステージに倒れていた。ほっぺたが熱くなってきて、なにがあったかやっとわかった。

「甘えるな」

降り下ろされたたま姉のてのひらも、赤く、熱くなっていた。

「これが、レースなんだ」