SECTOR-3:TAMAO-1

会長の決意……あたいにはしっかり伝わった。そうだ。いけるとこまでいってみましょう。

「はぁ~」
「はぁ……」
なんとか荷物を片付けて、あたいと生徒会長はお茶を一口飲んだ。
開け放った窓から、普段とは違う音が聞こえてくる。水の流れる音。聞いたことのない鳥の声。浮わついたおじさんおばさん達のおしゃべり。日常とはかけ離れた時間を思い知る。
「それにしても、たまおちゃん」
「はい」
「あなたって……」
「は」
「あんまりしゃべんないね」
「はあ」
よく言われるし、あたい自身はそれがいいとも悪いとも思ってないなら、コメントすることはとくにない。だから、考えはそこでおわり。でも大抵のひとには、それがよくない、ものたりないと言われる。
「ま、しゃべりすぎていいことはないから。あなたみたいなひと、あんまりいないタイプだから、ね」
「そうですか」
「うん」
そう言ったときの笑顔は、それまでの生徒会長の印象とはずいぶん差がある、やわらかくてやさしい笑顔だった。そのギャップの向こうには何があるんだろう。あたいにしては珍しく、興味と疑問が浮かんできた。
「あの、会長」
「わっ!?」
なぜだかわからないけど、会長が湯飲みを手から滑らせた。間一髪でキャッチしたけど、その慌てっぷりに、あたいの方がむしろ慌ててたかもしれない。
「すみません」
「いいのよいいのよ、あなたから声をかけられるとは思ってなかったんで」
「すみません」
「ううん、で、何かしら?」
「会長が……ミニ四駆部に入ったのは、どうしてですか」
会長は目を見開いたかと思うと、静かに目を閉じた。眼鏡の向こうで何を考えてるのか、推し量ろうとするけども、難しい。
「ひとつじゃないんだけど」
「ひとつじゃなくていいで」
「でもひとつだと思うの」
「……ひとつですか」
一口、お茶を口に運んでから、会長はゆっくりと目を開けた。
「あゆみに、押しきられた感じかな」
「押しきられた」
「諦めるどころか、放っておいた思いに、あゆみが火をつけちゃったから」
「それって、マラネロ女学院の」
「うん、それもある。それよりも、ミニ四駆っていうものに対して、レースに対して、何かと戦うっていうことに対して」
確かに、「押しきられる」っていうことばは合ってる気がする。
「それでどこまで行けるのか、見たくなった、試してみたくなった、からかな。ごめんね、よくわからなくて」
「いえ、大丈夫です」
キーになるのは、やっぱりあゆみ。
と、フスマが勢いよく開け放たれて、そのキーが飛び込んできた。
「ゴハンだってさ!」