SECTOR-3:TAKUMI-1

なんやかんやで会場にいっくぜー!
ボクたちの前にあらわれたのは、あの伝統のサーキット! それと、あんた誰!?

着替えをしぶってた会長も、いざ着ちゃったら何だか別人みたいなテンションになっちゃって、ボクらからしてみりゃ、はっきり言ってめんどくさい。

「始まるわね! 私たちの熱いミニ四カツドウが! 略して」
「はーい、うん、そうですね、ほら、じゃまになってるから行きましょ行きましょ」
「うむ、いざ参る!」

あゆみはその辺、会長の扱いに慣れてきたのか、適当にやり過ごしてる。

しっかし猪俣センパイの用意したユニフォーム。普段着てるロードワーク用のウェアとはかなり違う。ハダカのように軽く、体にフィットしつつ、適度な温度と締め付け感をキープしてる。ま、ひとつ問題があるとすれば、体を動かすわけじゃないから、ミニ四駆と《バーサス》にはまったく関係ないことだけど……。

「あれは!?」

めずらしく、たま姉が声をあげた。大会出場者用のゲートをくぐって会場に入った瞬間、それがあるのがボクにもわかった。

「鈴鹿。鈴鹿サーキット」

あゆみが言った。
メインステージの前、ミニ四駆と同じスケールでつくられた巨大なジオラマ。もちろん、レースは《バーサス》で行われるからボクたちのクルマがここを走るわけじゃない。でも、こうやって実物を立体で見せられると、ここで戦うんだっていう実感がわいてくる。

「あゆみ、すごいな」
「ええ……。」

立体交差を頂点としたコースの高低差はもちろん、ピットの建物やコース脇に立ってる観覧車までがきちんと再現されていて、ボクとしてはモデラーの目で見てもスゴいと感じる。
と、そんな考えは割り込んできた声に吹き飛ばされた。

「おーほほほほ、このくらいでビビってるようじゃあ、まだまだね、ルナ!」

不意に響いた声。近くのはずだけど、姿は見えない。五人できょろきょろしてると。

「ここよここ!」
「ああ!」

猪俣センパイの指差す先。小さなシルエットがあった。黒っぽい服に、黒い傘。服は……こういうのをゴスロリっていうの?白いフリフリがたくさんついてる。

「久しぶりね! ルナ!」

失礼にも、そのゴスロリっ娘はセンパイを真正面から指差した。けど。

「……誰?」
「ええっー! 忘れた!? 」
「うん」
「ああー、もう! 志乃ぶよ! 川崎志乃ぶ! 小学校でのライバルよ!」
「あー……?」
「思い出したわね!?」
「……全然」

志乃ぶ、と名乗ったゴスロリっ娘の脚が崩れる。

「まあいいわ! こんなところで会うのも運命なのかもね! 今度こそ、あんたのそのエラそーな態度を修正してあげるわっ!」
「ん? よくわかんないけど、がんばろうね」
「きーっ!」

ひとりでわめき散らして、志乃ぶさんはいってしまった。いろんなひとが世の中にはいるもんだ。

《それでは、開会セレモニーをおこないますので、選手の皆さんはステージ近くへおあつまりください》

アナウンスが、高い天井から響いた。いよいよみたいだ。