SECTOR-2:KANADE-1

秀美のことももちろん気になりますけど、
今はキャプテンで後輩の面倒を見ないとね。私たちはチームだから。

《スタート5分前です》

ピットウォールの席に座り、《バーサス》のバイザーをつける。がらんとした展示場は一転して、サーキットの風景へと変わる。

「気温25度、路面温度は40度。風はホームストレートで向かい風2メートル」
「会長、ありがと」

私の役割は、チームの司令塔であるあゆみのサポート。そしてルナ、たまお、たくみのフォローも当然ある。生徒会長とかいう肩書きはこの際しまっておこう。今は《すーぱーあゆみんミニ四チーム》のひとりなのだから。

「あゆみ、ほとんどのマシンがコースインしてきてる。タイヤの選択はけっこう別れてるわね」

ホームストレートを各チームのマシンが通りすぎてゆく。スタートはペースカー先導でのローリングスタートと聞かされた。隊列ができるまで、各マシンはウォームアップとしてコースを走っている。

「《ショウナンナンバーズ》のトップフォースは……大径バレル。《レジーナレーシング》のナイトレージも……大径。こっちはアバンテJr.のタイプ」
「うーん……。」
「あゆみ、迷ってる?」
「え、いやもう決めたことです」
「そうね。」

あゆみは明らかに緊張している。ここは先輩としての姿を見せなくちゃ。

「……あゆみ、これから先は回りを見てから自分たちを見るんじゃなくて、自分たちのことを決めてから、回りを見るようにしよう」
「そうですね」

といいつつも、私もあいつを、秀美を意識してるのはわかってる。もし秀美は、自分が負けたときに、ミニ四チューナーとしての自分をどうするつもりなの……。

「アスチュート!」

弱気な思いはあゆみの叫びと、フレイムアスチュートの排気音にかき消された。
深紅のマシンが私達の背後、ピットロードを進んでゆく。タイヤは予選と変わらず、赤いローハイトタイヤだ。

「秀美、ウォームアップもほとんどしないなんて相変わらず余裕ぶってるわね」
「マシンの状態は完全にわかってるってことですかね……」
「ほら、回りから見てる」
「あ」
「気を付けて」

《スクーデリア・ミッレ・ミリア》のフレイムアスチュートがコースインして、すべてのマシンがピットから出たことになる。
隊列を整えるために、パトライトをルーフにのせたマシンがあらわれ、赤いマシンの前についた。

「ペースコントロール、隊列に入って」
《Copy.》

あゆみが指示を飛ばした。エアロサンダーショットはマシンをかき分け、アスチュートに並ぶ。

「ルナ、たまお、たくみ、そっちは大丈夫?」
「問題ないです」
「……オッケーっす」
「いつでもいいですよ」

私のよびかけにそれぞれの答えがかえってくる。

《スタート1分前》

アナウンスが、時間を刻んでいく……。