わっ、志乃ぶちゃんのナイトレージにもアクシデント!
これで先頭に立つのは、あの赤いマシンです……。
トップフォースEvo.が私たちの後ろに下がってからは、志乃ぶちゃんの《レジーナ・レーシング》、エンプレスの《スクーデリア・ミッレ・ミリア》、そして私たち《すーぱーあゆみんミニ四チーム》が二周くらいの間隔で走り続けていました。
最初こそ余りうまくいかなかったけど、ピット作業もそれなりにできるようになってきたので、ひとまずは安心です。といいつつも半分の四時間が過ぎて、ちょっと眠くなってきたみたいで……。
「あーっ!」
でもあゆみちゃんの声が、私をレースに呼び戻してくれました!
「どうしました?!」
「ナイトレージのホイールが!」
「ホイール……?」
観客席が総立ちになる先、モニターには大きく車体を傾けたナイトレージJr.が映っていました。一コーナー、二コーナーを抜けたS字コーナーの二個目。「逆バンク」とも言われるコーナー、コースの外へ大径ホイールが転がっていきます。左のフロントが外れ、タイヤが3つになってペースが大きく落ちます。 いえ、ペースどころか走らせるので精一杯です。
「いいぞ、そのまま止まっちゃえ!」
「たくみ、口に気を付けな」
「あ、ああ、たま姉ごめん」
「ん、気持ちはわかる。ハイペースでとばしてたから、持たなかったんだな……」
赤いマシン、フレイムアスチュートがナイトレージの脇を駆け抜け、トップとの差は一周差、私たちの《フルカウラーV》も続けて通りすぎていきます。タイヤが二つになって、シャーシが路面をするようになったら、余りにも危険なのでリタイヤを指示されるかもしれません。でも何とかペースをコントロールして、ゆっくりとですが前に進んでます。
「これ……。見たことある……」
お母様に見せていただいたグランプリの映像。その中で輝いていたレーサーの一人。粗っぽい走りでしたが繊細で、でもとっても大胆。セルジナとは別のコースでしたけど、3輪になってしまっても、フロントウイングが吹き飛んでしまっても、最後まで走ろうとする気迫が、彼の走りからは伝わってきたのを思い出しました。
「お願いナイトレージ、我慢してあげて……」
私は胸の前で手を組んで、祈りました。ヘアピンカーブを何とかこなして、なだらかな右カーブ。
「ついに来たわね、秀美」
会長が腕を組んで言いました。フレイムアスチュートがナイトレージをかわしてトップへ。無理にペースをあげずに、変わった作戦もとらずに、ただただ同じペースで走り続ける。その積み重ね、ということでしょう。今のペースだと私たちも二位に上がることになりますが、エンプレスとの差は縮まりません。
そうしている内に、ナイトレージは何とかピットまでたどり着きました。ハイペースで逃げてバッテリーを余計に使う志乃ぶちゃんの作戦は、失敗しました。