SECTOR-4:TAMAO-1

レースの残り時間は少ない。
生き残ることに集中するべきか、ここで勝負にでるのか……。あゆみの気持ちは。

フレイムアスチュートが先頭に立ってからの二時間余りは特に何もなく。逆に神経を少しずつ削り取られるような苦しい時間が続いている。

先に動いた方が負ける。そんな使い古された表現しか思い付かないくらい、二台の間隔はほぼ二周ついたまま。一方で後方ではマシントラブルが続発していて、二〇台のうち五台のマシンはピットから出てこられなくなっている。小田原さんのマシンもそう。何とかなおしてはコースに戻るけど、一周持たずにピットイン、の繰り返し。一方でルナ先輩のお友達?の《レジーナ・レーシング》、川崎さんは何とかコースにマシンを戻して8位まで挽回してきてる。でも最初に描いてた、ハイペースで逃げる作戦は完全に裏目に出た。

《ショウナンナンバーズ》、藤沢さんもクラッシュから復帰して三位まで戻ってきたけどアタイたちまでは一〇周以上の差がある。

「マッチレース……。」

無傷のフレイムアスチュートと、軽い接触のだけで済んでるエアロサンダーショット。マシンの速さは当然必要だけど、それ以上にアクシデントに巻き込まれない、巻き込まれても軽く済ますチカラ……。ありきたりな言葉なら《運》もまた必要と痛感させられる。

「でも、このままじゃ……」

あゆみが腕組みして、ピットウォールの椅子に背中を預ける。みんな疲れがピークに達していて言葉は少ない。でも、最後まで走る、エンプレスに追い付くという気持ちがチームをひとつにつなげてる。

アタイにはわかる。チームを作るまで、みんな一人だった。アタイたちは双子ではあるけど、こんな風だから学校以外では一緒にいることも少ない。でも、《すーぱーあゆみんミニ四チーム》のひとりになって、合宿にいって本音で語って、こうしてる時間が幸せだと思うようになった。

だから、だからこそ勝ちたい。ただのいい思い出で終わらせたくない。そして、この気持ちをいつまでも味わっていたい。

「そろそろピットね」

会長が声をかけ、アタイたちは準備に取りかかる。

「もう……ここまでかな」

誰かが言った。誰? こんな弱い言葉を口にするのは? たくみ? それともルナ先輩? まさか会長?

「何いってるの、あゆみ!」

会長が、あゆみの両肩を強くつかんだ。エアロサンダーショットにピットインの指示は出してる。もうすぐピットレーンに飛び込んでくるって言うのに!

「もう……勝負はついたよ。これ以上、マシンが壊れるのは見たくないよ。ゆのちゃんも……川崎さんも……みんなも……最後まで走り続けてほしいってだけで……」
「しっかりしなさい!!」

会長が突き放すと、あゆみは力なく尻餅をついた。そのまま座り込んで、立てない。

「みんな、秀美のことなら私の方がよく知ってる。私にかけてみない?」
「かけるって……」

さすがのルナ先輩も声が震える。
かき消すように、ピットインを告げるサイレンがなった……!