SECTOR-5:KANADE-1

あゆみ、ごめん。
でも私はここまできたならチャレンジしたい。秀美に勝ちたい、そのための最終進化!《フルカウラーV-Z》!

ピットイン。

《バーサス》の筐体、ロックが外れてマシンがあらわになる。ルナ・たまお・たくみのピットワークも素晴らしく息が合ってる。バッテリーを交換し終わったところで、私は《フルカウラーV》に手を伸ばした。

「何をなさるんですか!」
「言語道断」
「会長はあゆみのサポート役だろ!」

3人がそれぞれに私を攻撃する。当然だ。

「どうせこのまま走ってても、秀美に追い付けない。でも何かやって失敗したとしても、後ろまでの差は大きく開いてる」

私はボディの後ろ、ウイング部分に触れた。後方に伸びたフィンの間、フラップ部分は別パーツになっている。

「だったら、仕掛けてみてもいいんじゃない?」

パキン、という小気味いい音ともにパーツが外れた。フラップを失ったフィンは、まるでドラゴンの頭に生えてる角のように、後方へ鋭く突き出している。

「会長、そんなことしたら……ん、んー、まあ、大丈夫か、そうか!」
「うん、ありがとう」

頷いて、立ち上がった。

「エアロサンダーショット《フルカウラーV》最終決戦仕様、《フルカウラーV-Z》!!」

私はマシンを《バーサス》にセットした。一瞬の読み込み時間を経て、異形のマシンを映したモニターに驚きの声が上がった。

「会長、ただパーツをとっただけじゃん」
「……安直」
「いや、違う。ウイングで生まれるダウンフォースを捨てて、空気抵抗を減らしながら車体全体でダウンフォースを生み出すってこと、ですよね会長」

あゆみが傍らで言う。

「そう、ひとつの狙いはね」
「ひとつ? 別に何かあるんですか?」

私は口元が震えるのを押さえられなかった。

「秀美を、ゆさぶらないと」
「ゆさぶる……。」
「あのコ、最後になるとどうしても緊張するんだか、あり得ないミスをする。だから自分のミスを計算にいれて少しでも多いリードをつくろうとする」
「自分のミスを計算に……。じゃあ揺さぶったって意味なくないですか?」
「そう、普通のレースならね。ただこんだけ走ってきて、マシンも人も壊れてきてる。その時に秀美が何をするか。ズルいかも知れないけど、そこからチャンスを見つけたいのよ」
「なるほど……。」
「何をするかは正直、どうでもいいの。私たちが『何かを仕掛けてきてる』ってことをわかりやすく伝えればいいだけ」

《フルカウラーV-Z》がコース上、バックストレートにかかったところで歓声が上がった。ダウンフォースの総量が減った分、立ち上がりの加速、最高速の伸び、あきらかに違う動き。その分高速の130Rではバランス悪く、シケインではタイヤが白煙を上げた。

トータルのタイムが出たけど、私は別のところ、赤いマシンのラップタイムを見つめていた。うまく気づいて反応してくれれば。

「秀美……。悪く思わないでね」

残りは一時間を切ろうとしていた。