エンプレス、本当はあなたと最後まで、今度こそ最後まで戦いたかった。けど……。
駆け足でロビーへ戻り、ピットへと急ぐ。
「涼川さん」
声が響いた。あたしと、声の主以外には誰もいない。つい数時間……8時間前にも同じ光景がここにあった。
「赤井さん、その……」
「ありがとう」
「え?」
「私たちに、チェッカーを受けるチャンスをくれて」
「え、あ、いやそんな」
エンプレスの、吹っ切れた笑顔、初めて見る中学三年生にふさわしい笑顔が、いま見るにはつらかった。
「あなたに、《本当の絶望を見せる》って言ったけど、あの言葉は取り消させてもらうわ」
「取り消す?」
「あなたには、絶望なんて言葉は似合わない。いえ、たとえそれが絶望だったとしても、あなたはそれを理解できないんだと思う」
「理解できない、ってあたしがバカだ、っていうんですか!?」
「そうね、バカかもね。それも超がつくくらいの」
「むー!?」
「ミニ四駆バカ、もしくはレースバカ」
「えっ……」
赤井さんはあたしの隣に立って、肩を叩いた。
「私には《絶望》だとしても、あなたはそこから《希望》を、《ワン・チャンス》を見つけてしまう」
「そんな……ただ、あたしは、少しでも長く、少しでも多くの友だち……仲間と、今の時間を味わってたかったから……」
「そう、それがあなたのいいところよ。その気持ち、忘れないで。さあ、いきましょう。チェッカーがあなたを待ってるわ」
「はい!」
ピットに戻ると、ルナちゃんに抱きすくめられた。たまおは黙って立っていた。でもほっぺたが真っ赤になっていた。たくみは、腕組みして天井を見てたけど、脚が震えていた。
「遅かったじゃない」
会長が、メガネの奥で目を赤くしながら、ピットウォールのあたしのイスを引いてくれた。
時計が、21時を指す。
130Rを立ち上がって、シケイン。最終コーナーを立ち上がって、チェッカーフラッグがエアロサンダーショットの上に輝いた。
と、急にインカムにノイズが入る。
「何?」
「聞こえる?」
「誰かしゃべってる? 会長?」
「私じゃないわよ」
ふたりで首をかしげてると、ルナちゃんが駆け寄ってきた。
「あゆみちゃん、これ、メッセージよ」
「メッセージ? 誰からの?」
「サンダーショットからの」