SECTOR-4 AYUMI-2

すべての人に、ミニ四駆を愛するすべての人に、いまはこのことを伝えたい。伝えなければレースは終わらない!

「いま、この場にいる皆さん。本当にお疲れ様です。レースに参加している皆さん、スタンドで見ている皆さん、運営に携わっている皆さん、本当に、本当にお疲れ様です。
ミニ四駆で8時間もの耐久レースをやるなんて、最初聞いたときは、どうなっちゃうか想像できなかったけど、あともう少し……20分くらいで終わりになります。
どういうわけか、あたしたちのチームが先頭を走っていて、2位のチームともけっこう差が開いちゃって……嬉しいけどこれでいいのかなって思ってます。
レースのいいところは、他のスポーツみたいに勝った、負けたってことだけじゃなくて、最後まで走りきれれば、チェッカーフラッグを受けられれば順位がつくってところだと思ってます。
でもマシンを、機械を使うから、壊れちゃうこともあって、トラブルでリタイヤしちゃうっていうのはどうしても避けられない
、逃げられない運命がついてまわるのは、レースの残酷な部分だなって思ってます。
でも、それに流されたくない。あたしは、これだけの時間を一緒に過ごしてきたみんなに、最後は笑ってもらいたい、そう思いました。
トップを走ってるからこういうことが言えるんだろ、っていうのは本当にその通り、でもあたしの心が、こうしろって言って止まらないんです。
いま走ってるチームの皆さんにお願いです。予備のパーツを使ってしまって、ピットから出られないチームがいくつかあります。もし、もう使わないパーツがあれば、何とか貸してあげてください。足りないものがあるチームは、声をあげてください。
あとコース上でリタイヤしてるチームの皆さん。いま《財団》の人にお願いしました。順位はリタイヤのままですが、マシンをピットまで強制的に移動させます。パーツを交換して、コースに出てきてください。
こうすれば、最後、みんなでチェッカーを受けられるかなって。
ごめんなさい、本当にあたしのワガママで。でもやらないと絶対後悔するって思ったから……」

あたしは、それ以上言葉を続けられなかった。
コントロールタワーに駆け込んで、《財団》のひとに無理矢理お願いして、無線の全チャンネルを開放してもらって、みんなに呼びかけた。こたえてくれるか、そっぽ向かれるかはわからない。でも、伝えたいことだったから、後悔はない。
しばらくの、永遠にも感じる静けさ。

「あの!」
声が上がった。
「チーム・メリーゴーランド、キャプテンの小田原です! わたしたち、60ミリのシャフト、マトモなのがもうありません!どなたかお願いします!」

ゆのちゃん……。
ありがとう。あたしたちのパーツを使って、といいかけたところで、

「ん? スペアならあるよ? ショウナンナンバーズまで取りに来な!」
「ありがとうございます!」

「あっ、レジーナレーシングには両軸のパーツがまだあるわよー!」

藤沢さんのぶっきらぼうな答え。それを切っ掛けに、あちこちから声が上がり、ピットエリアは大混乱。でもその人だかりをかき分けるように、1台、また1台とマシンがピットアウトしていく。その中に、赤いマシン、フレイムアスチュートもあった。

「みなさん、ありがとうございました」

あたしは深く頭を下げて部屋を出た。運営スタッフの何人かは、まだ大きく口を開けたままだったけど。