私たちが結束した理由。それを信じるために、今は私達がこの場を守る。それが私たちの役目。
レースも残りわずか。
そんなタイミングでチームのリーダーがピットを離れる、コントロールタワーに行くなんてありえない。あるとするなら、主催者への抗議ぐらいしか考えられない。でも私たちはトップに立ったし、アンフェアなことはしてもいないし、されてもいない。
「会長、あゆみちゃん、何か言ってたんですか?」
ルナが心配そうにピットウォールまでやってきた。その奥、最後のピットを終えて放心しきったたくみとたまおも不満、というよりは不安な顔をしている。
「うーん、やらなくちゃならないことがある、って言ってた。行き先はコントロールタワーだけど」
「何か、アピールでもするつもりなんでしょうか?」
「さあ? でも、チェッカーまでには戻ってくるって」
「そうですか。じゃあ、安心ですね」
「安心?」
ルナが口にした言葉は、おおよそ今にふさわしくないあったかい響きを持っていて、私は全身が震えた。
「《すーぱーあゆみんミニ四チーム》は、あゆみちゃんを信じて集まったチームでしょう?」
「……そうね」
「だから、いまはあのコのことを信じて、何が起きるかを楽しみに待っていましょうよ、会長」
「そっか……。ルナの言うとおりね」
コースを映すモニターに目をやる。慎重に走るエアロサンダーショット。10周差の2位がトップフォースEvo.。3位には、終盤にきてペースを取り戻したナイトレージJr.が上がってきていた。でもトップフォースEvo.までは5周くらいの差がついている。ピットに入ったまま動けないのは小田原さんたちのベアホーク。そして、一コーナーでリタイヤしたフレイムアスチュート。それ以外にも半分近いマシンがリタイヤか、トラブルで動けなくなっている。
秀美に対して、特別な思いは今はまだ浮かんでこない。まだレースは終わってないし、勝ったとはまだ言い切れない。せめて最後まで走って、チェッカーを受けて欲しかったけど……。
《あーあー》
その時、コースじゅうに声が響いた。《バーサス》内だけではない、会場全体に本物の声が響いている。
《聞こえますか? あたしは、ヨコハマのトゥインクル学園の涼川あゆみです。「すーぱーあゆみんミニ四チーム」のリーダーもやってます》
「あゆみちゃん!?」
ルナがすっとんきょうな声をあげる。
会場全体がザワザワと大きなうねりを伴った波に包まれ始めた。
涼川さんが、いよいよ何かを始めたようだ。
私は席についたまま目をとじて、涼川さんの言葉に耳を傾けた。