七時二十九分にシン・ヨコハマ駅を出発した新幹線《あいな九号》は、多くの乗客を乗せて東海道を西へ進み始めた。
「ミニ四駆選手権全国大会」の予選ラウンドは十月のフクオカ、十一月のナゴヤを経て、十二月、最終のオオサカ大会を迎えた。
「うわっ、やっぱ混んでるよ」
自由席の車両に入ったたくみが、思わず声をあげた。座席は半分ほど空いているものの、《すーぱーあゆみんミニ四チーム》の五人がまとめて座れるだけの余裕はない。
「やっぱり、この間と同じように、早めに出てトーキョーから乗った方が良かったかしらね……」
奏がため息交じりに言う。
「あゆみがしっかり、早起きできるって言ってくれれば」
「あはは……まぁ、遅刻はしなかったんだから、よかったじゃん」
たまおの指摘に、あゆみは半笑いするしかなかった。
「じゃあ、それぞれ空いてる席に座りましょう。乗り過ごしたりしないようにね」
奏の指示にうなづいて、五人はそれぞれに席を探した。三人掛けの座席の中央が埋まっていたり、二人掛けでは窓際だけ埋まっていたりと、並んで座るのも難しい。ルナは、同じ年頃の少女が座る二人掛けの席を見つけた。
「こちら、お隣よろしいですか?」
「はい、構いませんが」
少女は、読んでいた文庫本から目を上げた。クラシックなセーラー服の襟元に、わずかにかからない黒髪。やや太めの眉の下、力のある瞳。真面目そうな人、がルナの印象だった。
しかし少女に向けた笑顔は、座席に身を預けると同時に、深いため息にかき消された。
姉、サリーヌとの再会。王室から飛び出し、外の世界へ飛び出した二人の姉は、確かに自分にはない輝きを掴んでいた。ライブハウス、客席で振られるライトに照らされた姿は、思い出すと懐かしいような、拒絶したいような感覚にとらわれる。ルナの心は、偏光スプレーで塗られたボディのように、相反するふたつの色味を帯びていた。
「あの」
「えっ?」
急に声をかけられて、ルナは僅かに座席から腰を浮かせた。隣の席の、真面目そうな少女が、力のある視線を投げかけていた。
「もしかして、ミニ四駆選手権に出られる方ですか?」
「あっ……はい……」
別に恥ずかしがることもないのだが、ルナの頬は赤く染まっていく。
「やっぱり。《すーぱーあゆみんミニ四チーム》の猪俣ルナさん」
「えっ、どうして」
少女は、開いていた文庫本を閉じた。
「私も、そうだから。サイタマ代表、《サイコジェニー》の岡田あきらです」
「《サイコジェニー》って……」
「そう、この後、あなたたちと当たるチームです。奇遇ですね」
「あっ……でも、カナガワとサイタマ、エリアとしては近くですから。これも何かの縁、どうかよろしくお願いします」
ルナは深く頭を下げた。その気品ある立ち振る舞いに、あきらは戸惑う。
「いやいや、そんな丁寧にされても。私達、この後レースするんだよ?」
「サーキットに入るまでは、同じミニ四駆仲間でしょう、私たち」
言いながら、大分あゆみの影響を受けているな、とルナは感じた。
……ミニ四駆がサレルナを強くしたのかな……
サリーヌの言葉が不意に思い出され、ルナは目を細めた。