2

それからしばらく、あきらとルナの間で会話の花が咲いた。他愛もない学校生活の話から、ミニ四駆と《バーサス》に関するテクニカルなトークまで。自分でも意外なほど、あきらとの会話はルナを刺激してくる。だがその刺激は自身を傷つけたり、返答に困るような内容を含んではいない。ミニ四駆で《選手権》に出場し、全国大会にまで勝ち進むこと。それは参加している全員にとって、この上なく貴重な共通体験なんだな、とルナは話しながら納得していた。
しかし、前回大会の舞台となったナゴヤを過ぎると、少しずつ、それぞれに緊張があらわれ始める。

「私達、二敗しちゃってるからね。《フライング・フレイヤ》と《V・A・R》に。あのニチームとは、全然レベルが違うから」
「はい……」

《すーぱーあゆみんミニ四チーム》は一勝一敗。暫定ランキングではEブロックの4チーム中、2位につけている。最下位の《サイコジェニー》が逆転して予選を通過する可能性は極めて少ない。

「猪俣さんたちの、レースは観てるよ。すごいね、あなたたちのチームのマシン」
「いえ、すごいのはたまおちゃん、たくみちゃんのデクロスよ。もちろんリーダーとサブリーダーのマシンも」
「そう? 猪俣さんの金色のフェスタジョーヌ、映像で見たけど上品でカッコいいと思うよ」
「いえいえ、結果がぜんぜん出せてないですから。リーダーやみんなに頼りっきりで」
「そんなことないよ。私達だっていいトコ見せれてないし。でも」

そこまで言って、あきらは言葉を飲み込んだ。正面に向けられた視線は、前の座席を貫かんばかりの強さがある。ルナは次の言葉を待った。

「……でも、何かを、残したい」
「残す?」
「うん。私達の爪痕というか、私達がたたかったっていう証を。私のチームは、《サイコジェニー》は、この大会限りの、チームだから」
「それって、どういう」
「あ、ごめんね。余計な事しゃべりすぎた。気にしないで」

スイッチが切り替わるように、あきらの視線から力が抜ける。
それ以降、あきらとルナの間に言葉が交わされることはなかった。共通体験があると思ったのも一瞬。やはりそれぞれが置かれている環境は違うし、喜びも、悲しみも、それぞれがつかむべきもの、つかむべくしてつかむものであって、他人から取り除いたり、分け合ったりすることはできない。
ルナがそんな事を考えているうちに、新幹線はシン・オオサカ駅に到着した。

「じゃあ、また後で」
「よろしくお願いします」

そっけない言葉をわずかに交わして、ルナとあきらは別れた。