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第三戦の舞台となるのは《モーギュウドーム》。シン・オオサカ駅からは在来線を乗り継いでいく必要があるが、ナゴヤと同様、会場近くに宿泊施設がない。そのため、ターミナル駅であるオオサカ駅近くのホテルが《財団》から指定されていた。

「まあ、ここまでの流れが、前回と同じなのは、別に文句ないわよ」

奏が口元を震わせながら言う。

「だからって、またもや私の部屋でミーティングをしなくったっていいでしょう!」
「まあまあ会長」

ベッドの中心を占拠したあゆみが、柔らかなスプリングに身をゆだねる。

「前回、こうやってミーティングして勝てたんだから、今回も、まあ、大丈夫だよ」
「私は大丈夫じゃない!」
「ナーバスになるのもわかります。ただ、ここは会長の器の大きさを見せていただいてもいいのではないでしょうか」

ルナが芝居がかった風に言う。その振る舞いに奏はたじろぐ。これまで噂レベルに過ぎなかった、ルナの出自の一端を見せつけられた。その事実は、たとえチームメイトであったとしても、気にせずにいられるものではない。

「うー、まあ、時間も限られてるし、やっちゃいましょう」
「流石」
「会長、お願いします!」

茶化すたまおとたくみを一瞥してから、奏は手元のプリントに目を落とす。

「えー、みんな分かってると思うけど、今日のレースで予選ラウンドは終了です。4チームでつくられた各ブロックの上位2チームが、来年の決勝に進むことができます」

ふざけ半分だった空気が、ピリッとした緊張感に包まれる。

「私たち《すーぱーあゆみんミニ四チーム》がいるEブロックの順位をおさらいしておくと、一位が二勝の《フライング・フレイヤ》。二位が《すーぱーあゆみんミニ四チーム》、一勝一敗。三位が同じく一勝一敗の、《V・A・R》」
「あれっ、同じ成績だったら同率二位なんじゃないんですか?」

たくみが首をかしげる。

「同率の場合は、直接対決の結果で勝った方が上にランキングされるの。前回の第二戦で私たちは新町さんたちに勝ってるから、それでよ」
「そっか……」
「続けるわね。四位は、二敗の《サイコジェニー》。そして今日の相手がこのチームです」

ルナが眉をひそめる。新幹線で会った、岡田あきら。決して力で劣る相手には見えないが、それでも勝つことができない。強い力を感じる瞳が思い出された。

「会長、あたしたちは、どうすれば決勝に進める?」

身体を起こして、あゆみはベッドの中心であぐらをかく。

「そうね。条件別に整理するわ。まず、私達が勝った場合。……勝った場合は、もう一レースの結果に関わらず、Eブロック2位以内が確定します」

四人の口から、小さく感嘆の声が漏れた。
奏は、仮に《すーぱーあゆみんミニ四チーム》が勝っても、《V・A・R》が《フライング・フレイヤ》に勝つと二勝一敗で三チームが並んでしまうことを知っていたが、それについては黙っていた。誰からも指摘がないことを確認して、言葉を続ける。

「で、負けた場合……あんまり考えたくないけど……。もう一レースで《V・A・R》が勝つと、私達は敗退」

「そっか……」

あゆみが舌打ちしながら言った。

「まだ可能性はあるわ。もう一レースで《フライング・フレイヤ》が勝った場合が難しいの」

「難しい……何故ですか?」

ルナが右の頬に手を当てる。

「《フライング・フレイヤ》が三勝で一位なんだけど、残りの三チームが一勝二敗で並びます。しかも、三チームの間で勝ったり負けたりしてるので、直接対決の結果でも決められません」
「あっ、確かに」
「その時はどうやって決めるんだ?」

ルナの背中越しに、あゆみが身を乗り出す。

「その場合は……2位の回数が多い方が上位にランクされます」
「2位の回数?」
「ええ。私たちは第1戦の《フライング・フレイヤ》戦で涼川さんが2位に入ってるし、この間の《V・A・R》とのレースでも、私が2位を確保しています。《V・A・R》も《サイコジェニー》も、《フライング・フレイヤ》とのレースでは上位3位までに入れていません」
「と、いうと」

奏が、咳払いしてから言う。

「1位をとられても、2位を確保できれば他のチームの動向に関係なく決勝に進出するということです」

2位狙いでも決勝に進める。これは、喜んでいいのかどうか。誰もが、次の言葉を思いつかず、ただしばらくの間、黙っていた。