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二人の少女が、手を握り合ってかすかに震えている。蘭の目に映った光景を表現するのに、それ以上の言葉は必要ない。

「やはり、実に興味深いな」

口元に手をおきながら、独り言ちる。
レース終了とともに《バーサス》をログアウトし、パーテーションにより閉鎖された空間を出たところで、蘭はルナの姿を見つけた。本人が自覚しているかはともかく、彼女の存在感はとにかく目立つ。

「おい、教授!」

背中にずっしりとした重みを感じる。キンキンした声の主を振り返らずに、突然飛び掛かってくるな、と蘭は抗議する。

「だって、こんなところでボーッと立ってるからさ」
「ボーッっとはしていない。見入っていただけさ。希望を掴んだ者と、希望を奪
われたものの、美しい交流の様子をね」
「はーん、わかんないけど。んじゃ、教授のチームは残れたんだね?」
「当然だ。万代も、まあ、その様子じゃ聞くまでもないか」
「まあね~。でもって瀬名っちはどうなのかな?」
「さあ。心配するまでもないと思うが」
「だよね~。そんじゃ、また! 決勝かな、次は」
「どうだろう。その前にまだ何かある気もする」
「え~そうなの~? まあいいや、バイバーイ」

飛び跳ねるように遠ざかる尚子の背中に気を取られている間に、蘭の視界からルナの姿は消えていた。

「氷室先輩、こんなところに」

背中の方から、《フロスト・ゼミナール》のメンバーの声が聞こえる。

「ああ」

白衣のポケットに両手を入れて、蘭は振り返る。つややかな長い髪がふわり、と広がる。表情は、その陰に隠され、うかがい知ることはできなかった。

イベント終了を告げるアナウンス、引き上げていく観客の話し声、選手たちの歓声と落胆のため息。それらの音が混然と《モウギュードーム》を満たしている。
ミニ四駆選手権全国大会は、予選ラウンドを終え、最後のレース、決勝ラウンドへと進んでいくこととなる。