日が沈み、空がほとんど夜の色に染まったころ、トゥインクル学園中等部学生寮の前に、マケラレーンZ1は到着した。
「あゆみちゃん!」
「会長」
「二人とも、おつかれ様~!」
ルナとたまお、たくみが二人を出迎えた。トリッキーなトランクの場所に驚きながら、二人の荷物を手分けして運び出す。
「おおの嬢ちゃんたちが残りのチームメンバーか!
いつも、ウチの奏が世話になってるようで、本当にありがとう! ここまで来たら優勝じゃよ! 期待しとるぞ!」
ルナたちの返事は、野太い排気音にかき消された。一瞬だけリヤタイヤがスリップし、ゴムの匂いを残しながらZ1は発進した。
「あゆみちゃん、まあ、とりあえず帰ってこれてよかったわ」
「ホントだよ~。切符見た時こっちだって死ぬかと思ったよ~」
「悪運が強いのか、単に注意力散漫なのか、アタイにはつかみかねる」
投げかけられる言葉に、あゆみは反応しない。荷物を肩から下げて、ただ前に進んでいるだけだった。
「涼川さん、大丈夫?」
たまらず奏が声をかける。
「大丈夫ですよ、あたしは」
「本当? 顔色もあまり良くないようだけど」
「長旅で疲れたんですよ……。ごめんなさい、あたしは今日は、これで失礼するわ」
「涼川さん……」
「じゃあ、みんな、また明日」
力なく、あゆみは自室に向けて廊下を歩いていく。それまで見たことのない姿を前に、四人は声をかけられなかった。
「会長、帰りのクルマで何かあったんですか?」
たくみが聞く。
「うーん……ごめん、ほとんど私、寝てたんで、おじい様と涼川さんが何を話してたかは、聞いてないのよね」
「会長、寝すぎです」
たまおが眉根を寄せる。
「もしかしたら、会長が寝ている間に、おじい様から何かを伝えられて、それにあゆみちゃんはショックを受けたっていうことでしょうね」
ルナの推理に奏が手をたたく。
「そういえば、涼川さんのお父様と、わたしのおじい様、ヤムラで一緒に働いていたことがあったらしいわ」
「ふーん、でもそれってあゆみには直接関係ないじゃないですか」
「まあ、その通りなのよね」
「不可解」
「そうなると、会長のおじい様と、あゆみちゃんのお父様に関係した話も、当然あったでしょうね……。でも、それがあゆみちゃんに何かかかわりがあるのか、は、私たちだけでは分かりませんね」
「うーん……でも気になるわよね……」
四人は腕を組んで、ひとしきり唸った。
あゆみの自室へ続く廊下は、ところどころ照明が消えていて奥まで見通すことができない。四人であゆみを訪ねようかという話も持ち上がったが、結局そのまま解散となった。
あゆみの部屋の扉には、中にあるじがいるにも関わらず、鍵がかけられていた。
《ミニ四駆選手権》全国大会最終予選の週末は終わっていく。年明けに開催される決勝に向けて、時間は少しずつだが確実に、前へと進んでいた。