仲居さんたちによって、綺麗に布団が敷き詰められた部屋に、《すーぱーあゆみんミニ四チーム》が戻ってきた。
「すっげー、布団敷いてくれたんだ」
「きゃっ、私の荷物、重ねてほしくなかったわ……」
「これは……ポジション取りが重要」
たまおとたくみ、そしてルナは非日常の光景を前に無邪気にはしゃぐ。だがレースをたたかった二人と、蘭の動きを注視していたあゆみは、その輪の中に入っていけない。特に奏は消耗した様子で、足取りもおぼつかない。
「もう……本日は終了しました……」
奏は眼鏡を手に取ると、跳び込むようにして布団に倒れ込んだ。肉厚の枕が、顔をやさしく包み込む。長い髪が乱雑に広がった。
「あっ、会長、その角のいいところ!」
たくみの言葉に返事はない。
「まあ……お疲れならいいですけど」
しぶしぶ認める。
「しょうがない、その……弟くん」
「妹です!」
「さっきの結果で、決勝は奏のエアロアバンテで行くということでいいな」
「えっ、スルー」
秀美が四人を見渡す。全員が深くうなずく中、たくみは怪訝な表情を浮かべていたが、控えめにうなずいた。
「うーん、みんな……ありがとう……」
奏が枕の中で、力なくこたえた。
「エアロサンダーショットと、エアロアバンテ……」
あゆみがひとりごちる。
決勝レースの舞台となる広大なサーキットを、ARシャーシの二台が連なって走る様子が目に浮かぶ。その先に走るのは、やはりARシャーシの、エアロマンタレイ。あゆみは、その走りを直接見たことはない。だが圧倒的にレースを支配するシャドウシャークですらかなわない性能を発揮して勝ったということから、性能は推し量ることができる。瀬名アイリーンと、同じサーキットで走る日が近づいている。あゆみの不安が膨らむ。
だが決勝レースで、エアロマンタレイの隣に走るマシンは何か。
「ところで会長、他のチームのエントリー状況って見れるんでしたっけ?」
あゆみが、さりげない風をよそおって聞く。
「うーん、エントリーが済んでるところの情報は、サイトに出てるはず……」
「ありがとうございます」
言い終わるよりも早く、あゆみは手元のスマホで《ミニ四駆選手権》の参加者向けサイトにアクセスする。
トップページに決勝を走るチームの一覧表が掲載されており、その中にエントリー済みのマシンも確かに表示されている。
「瀬名さんの、《ガディスピード》は……」
TBA、つまり未発表の表示が目立つ中、トーキョー代表チームの欄にははっきりとマシン名が表示されていた。
画面をスワイプするあゆみ指が、ぴたりと止まった。その表記を見た時、自分がどんな顔をしているのかわからないほどの感情が湧き出てくるのが分かった。
エアロマンタレイと並んで書かれていたマシンの名は、《ライキリ》だった。