「それで、私ってわけ?」
秀美は、ブラックコーヒーの入った紙コップに口を付けた。ファストフード店のテーブルにぎっしりと、《すーぱーあゆみんミニ四チーム》のメンバーが詰めかけている。
「選べる中で、やっぱりあなたが適任だと思って」
正面に座った奏が、身を乗り出す。あゆみ、ルナ、たまお、たくみの四人は隣のテーブルから戦況を見つめている。
「適任? であればもっと適任の娘がいるだろう。たとえば……藤沢は、そっちの兄弟とは、うまくやってるみたいだし」
「兄弟じゃない! 姉妹です!」
「たくみ、突っ込むところ、そこじゃない」
ふたりのやり取りを横目で見て、秀美は笑う。その姿に、奏は眉根を寄せる。
「ほかにも川崎さんや小田原さん、いいチューナーがたくさんいる。何も、地区予選でほとんどリタイヤした人間を引っ張り出してくることは、あるまい」
「でも!」
あゆみが思わず声をあげる。一瞬、店内が静まり返る。あゆみが顔を赤くするのに反比例して、また何事もなかったかのように話し声が響きだす。あたりを見回し、小声で続ける。
「でも、エンプレスには経験っていう武器があるじゃないですか。瀬名さんや、去年の表彰台メンバー、それに羽根木さんも。みんな、あたしたちよりも、エンプレスを見てますよ」
「買いかぶりすぎだ」
秀美は薄笑いを浮かべながら目を伏せる。自嘲めいたその表情を見て、あゆみは歯噛みする。暴発しそうな気配を察して、ルナが肩口に触れる。あゆみは一つ、息をついた。
「引き受けては、くれないのね」
奏が力なく言う。
「すまないけど、その通りよ。これは、私のっていうよりも、《すーぱーあゆみんミニ四チーム》のためを考えての事。仮に私が加わったところで、お荷物にしかならないよ」
秀美が席を立つ。
「あっ、まだ話は」
「終わっただろう? 何を言われても、私の考えが変わることはない。ここであなたたちが時間を無駄に費やすことはないわ」
「そんな、だって」
「たしか奏、おごってくれるって話だったわよね。ごちそうさま」
「秀美!」
奏の声に振り向くことなく、秀美は立ち去っていく。奏は立ち上がるが、遠ざかる背中は、追いかけることを頑なに拒絶しているように見える。奏は、力なく腰を下ろした。
「くーっ、だめか……」
「決意は固い」
緊張してちぢこまっていた、たくみとたまおが深いため息をつく。
「そうかしら?」
ルナが平然と放った言葉に、奏が文字通り飛びついて、きゃしゃな両肩をぐわしとつかんだ。
「ど、どうしてそう思う?」
「あの、会長……」
「そう思った理由があるんでしょ?」
「ありますけど、ちょっと、落ち着きましょう……」
「わっ、ごめんね」
手を放す。ルナの肩口に、奏の手汗がしみ込んだしわが出来た。苦笑しながらルナが言う。
「本当に引き受けたくなかったら、今日、この場には来ていないはずですよ。会長が呼び出した時点で、私たちがどういう話をするかは想像できていたはずです。それでも、エンプレスはやってきました。だから……」
「もう一押しってこと?」
言葉に詰まるルナに、あゆみが尋ねる。
「そうだと思うのですが、ここから先は、私たちでは、わからない部分です」
「わからない部分?」
奏が頬に手を当てる。
「会長とエンプレスは、私たちがチームを結成するずっと前からのお付き合いと伺っています。お二方でないと通じないものがきっとあるんじゃないかと」
「私と、秀美ねぇ……」
秀美はすでに店外に出た。雑沓の中、その姿を見つけることはもう出来ない。
「わかった。もう一度、話してみる」
奏は頬から手をはなし、ぐっと握り締めた。
