SECTOR-5:AYUMI-3

このまま何もできないで終わるなんてできない! いざ勝負、女帝!

もう、残りは10周を切った。

差は3秒。エアロサンダーショットに、ひとことペースアップを命じれば、マシンは加速して前に出るだろう。でもそうすると、一気にバッテリーを使ってしまい、ゴールできないかもしれない。だからうかつには加速できない。

たとえ《バーサス》上でのレースでも、ミニ四駆だから操縦はできない。あたしにできることは、インカムを使ってマシンに指示をすることだけ。そのタイミングひとつだ。

相手のバッテリーの残り、タイヤの寿命、それらは全てラップタイムと、モニターのなかに作られた映像から判断するしかないい。

残り5周、差は1.5秒。

もう行くしかない! あたしはガマンしきれなくなり、《バーサス》につながるインカムのマイクを口に近づけた。

「ペースアップ、マイナス4(1周で0.4秒ペースアップ)」
「COPY(了解)」

コクピットからの通信がとどいた瞬間、エアロサンダーショットは鋭く加速した。
差をゼロにすべく、フレイムアスチュートのアウトに並ぶ。
さっきまでのタイム差なら、残り1周で前に出られる。そうすればあとは大径タイヤの最高速に任せていれば大丈夫。

そう思っていたけど、そう簡単じゃなかった。

「そうこなくちゃ、ね」
「エンプレス……」

フレイムアスチュートもペースアップ、バッテリーがどこまで残っているのかはわからないが、あたしが動くのを待っていたっていうことだろう。

エアロサンダーショットはジリジリ差を詰めていくけど、もう時間がない!

ひとりで走らせているだけでは得られない、この興奮。自分にプレッシャーをかけて、それを乗り越えていく、この喜び。自分のホビーに学校を巻き込むってのは、確かにわがままかも知れない。でも、いま感じているざわめきを、もっと長く、もっと強く感じていたい。このキモチに嘘はつけないから。

バッテリーはまだ持つ。全開同士の戦いならば、トップスピードで勝っているエアロサンダーショットに有利。

ファイナルラップ。このまま黙って終わってしまったなら、もう、あたしは走れない。
負けてもいい。のこり1度のチャンス、ワンチャンスに賭けたいから!

サンダーショット、全開!
「COPY」

最終のホームストレート、二台は並んだ。第一ターン、第二ターン、併走したまま。

第二ターンの立ち上がりでフレイムアスチュートが鋭く加速するが、エアロサンダーショットがとらえた。シャーシ半分前に出たまま、第三ターン。こういうときに何もできないミニ四駆はもどかしい。このもどかしさこそがミニ四駆なんだけど!

最終の第四ターンへ。

「あっ!」

あたしにはわかった。バッテリーが急激に消耗する地点、いわゆる「崖」に達したこと。わずかにスピードが落ちたエアロサンダーショットに、フレイムアスチュートが並びかける。

第四ターンから直線へ。差は縮まる。縮まって、縮まって、最後は目をつぶってしまった。