Sector-3:KANADE-1

受けなくてもいい勝負を避けるのも、チームリーダーの仕事じゃないの?
それとも勝てる自身があるのか……。

文字通り嵐が通りすぎるように、たまおとたくみ、早乙女姉妹は屋上からいなくなった。
あゆみは、久々にヘアバンドを巻いて「すーぱーもーど」に入っている。エアロサンダーショットを取り出し、セッティングを始める。

「もともと2台でデモ走行をする予定だったから、《バーサス》借りてきてたけど、相手は二人。どうしましょうか……」

私は言いながら頬杖をついた。一台ずつのタイムアタックにするか、それか一対一の勝負を二回やるか。あゆみは私の考えにも気づかずにもくもくと作業を進めている。

「あの……」
「ん?」

猪俣さんが、妙にもじもじしながら近づいてくる。手には、何かが入った紙袋。そういえば朝からこの娘の足元にあって、何が入ってるのか気になっていた。

「私物、なんですけど」

取り出したのは、軽金属の筐体。外であらためて見ると、光を反射してまるで後光がさしているようだった。

「《バーサス》! ちょっと、これなんでもってるの?」
「あの、お二人に少しでも追い付きたくて……それに、今日のデモ走行、ふたりだけだとちょっともったいない、というか私のフェスタも混ぜてもらいたくて」
「じゃー決まりな」

顔を上げず、手も休ませずにあゆみが言った。

「《バーサス》を3台つかって、二対一でいいでしょう」
「ちょっとあゆみ、それじゃ圧倒的に不利じゃない! 相手は2台で作戦を変えてくるだろうし、それ以外にもどんな手を使ってくるかわからないのよ?」
「わかってますよ。わかってます。早乙女ズの考えそうなことは」

振り向いてニヤリと笑うと、また作業にもどる。

「お二人のこと、よくご存じなのですね」
「まーね。前からああよ。二人の世界がまずあって、そこから周りを変えようとしていく。小学生のときからそう。」
「周りを、変えようとする?」
「そう。たくみの関心がどっかにいったら、たまおがうなづいて、あとは目の前のものを何でもやっつけていく」
「なるほどね……」

確かに。学年で唯一の双子だから目立つはずだが、彼女たちの回りで不穏な動きは見られない。もって生まれたパワーとでもいうべきか。

「でもたくみは、にぎやかなのが好きなだけ。本当にいろいろ考えているのは、たまおの方。あの娘がノープランで勝負かけてくるとは思えない。きっと何か作戦があるはず。」
「作戦か……」

思わず、空を見上げた。
相変わらず日差しがまぶしく、澄んだ青い空だった。