Sector-4:TAMAO-1

……こういうのを豆腐メンタルっていうの?
まあ、アタイがどうにかするしかないけど……。

「あれでよかったの」
「うーどうしよどうしよどうしよ」

アタイの言ったことに反応できないほど、たくみはナーバスになっている。校舎の裏手、日差しがほとんど届かない場所に、アタイらは逃げるようにやってきた。ま、ホントに逃げてきたんだけどな。
たくみは校舎の壁に背中を預けて、あたまを抱えている。ふだんのテンションが高い分、その糸が切れたときの落差が激しい。でも、たくみはいつだってこんなもん。自分が有利なシチュエーションをつくったつもりになって上から目線で向かっていくけど、アイディアが足りなくて返り討ちにあってしまう。まあ、それがたくみのやり方だといえばそれまでなんだけど。

「こんなこともあろうかと、一回《バーサス》で練習してきたやん」
「あーでもでもでもでも、リアルのコースならまだマグレもあったかも知れないけど《バーサス》ったら無理だって」
「なんだかなぁやねえ」

腕時計は1時50分を指している。

「二時からだよな。さ、そろそろいこか」
「ああ、あああ。」
「アタイの作戦は聞いてたよね」
「ううう、うん」
「アタイが先に出るから、たくみはあゆみをマークしといてね」
「おお、おおう……」

たくみの口から、威勢のいいかけ声の代わりにため息が出る。まあ、身から出たサビ、自業自得、どうとでも言えるだろうけど、そこまで自分を信じて追い込めるのも、うちにはない個性だと思ってる。

うちらは隠れていた場所をでて、体育館へと向かった。
トゥインクル学園の文化祭は二日間にわたって行われ、文化系の部活には一枠ずつのアピール時間がもうけられている。軽音部のライブや演劇部の劇など定番のものが並ぶなかで、ミニ四駆部の存在は控えめに言っても「異様」だった。
まあ初日の午後という、どうしても眠くなる時間は人気がないから、たまたま空いていたスペースを埋めるように滑り込んだようだ。でもできてから一ヶ月もたってない部が枠を作れたあたり、生徒会長の権力と、それだけではない交渉力がよくわかる。それでもミニ四駆なんて、この学校ではマイノリテイのはず……。

「あわわ、結構ひとが入ってるよ」
「……想定外」

並べられたパイプ椅子は半分ほどうまっている。中等部の生徒の中に、高等部の生徒も見える。
確かに、「すーぱーあゆみん」こと涼川センパイは、ミニ四駆部立ち上げのときのエキジビションで相当な有名人になった。さらに新たに入った猪俣センパイは学内で知らぬものはいないスーパーお嬢様。そして説明の要らない恩田生徒会長。
学内の人気者がそろってるんだから、当たり前なのかもしれない。

「ふたりとも用意いい?」

不意に後ろから声がかかる。
猪俣センパイの笑顔がそこにあった。

「そろそろ出番だから。いきますよ」