SECTOR-5:RUNA-1

旅行先でないと、朝のお風呂ってなかなかできないから……って、あなたは!

目覚まし時計がないのに、自然に起きてしまう。いつもとはぜんぜん違う時間に寝たのに、起きるのは普段とおなじ時間。そんなことありませんか? 私はいま正にそんな感じです。
オレンジ色の光の下、まだみんな寝ているようで静か。でも妙に静かな感じはありますけど、遅くまで起きてたからまだ寝てるのでしょう。
そのくらい、5人で考えて、話し合って、悩んで、笑って。レースについては結局、全員が頑張るしかない、チーム名についてはみんなで考えてあした決める、そのぐらいしか決まりませんでした。それでも、みんなとの距離は縮められたような気がします。
うーん、何かもう一度寝られないので、せっかくだから朝風呂に入ろうかと。枕元の着替えをもって、そーっと部屋を出ました。昨日も行った廊下の先、大浴場がありました。
「あれ? たくみ?」
誰かが既にお風呂場にいるようで、すりガラスごしには、たくみが入っているようでした。昨日も真っ先にお風呂に入ろうといい始めていましたし。
さっと裸になって扉をあけると、昇ったばかりの日の光が飛び込んできて、その中に立ち上がった女の子のシルエットがありました。なんというか、月並みだけど「こうごうしい」としか言えないような姿でした。
「……先輩、来たんですね」
たくみよりもトーンの低い声。
「たまおちゃん?」
勘違いしてたのが恥ずかしくて、何となく気まずく、私はあわてて洗い場へ。たまおちゃんは湯船に。私が洗い終わるのを待ってたのか、たまおちゃんは肩までお湯につかってじっとしていました。
「となり、いい?」
「はい」
たくみとはぜんぜん違う、鋭い感じが伝わってくる。でも誰かを遠ざけたり、傷つけたりするような感じじゃないのです。どっちかと言えば、日本舞踊とかなぎなたあたりが似合いそう。私のなかに「?」マークが浮かびました。
「たまおちゃん」
「もう出ますか」
「いや、そうじゃなくて……。たまおちゃんがプラモデル、それにミニ四駆をやってるのってどうして?」
今まで見たことない、困った顔に一瞬なって、でもまたいつものクールさが戻って。
「プラモデルは、自分との対話です。無心になりたくて。でもミニ四駆は、もちろん自分とのもあるけど、コースとの対話、相手との対話。つながりが、そこにあるので」
「そっか」
「先輩とも、会長とも、それにあゆみとも」
たまおちゃんが天井を見上げた。
「じゃあミニ四駆部に入ったのも、そのつながりのせい?」
「そう、ですね」
「みんなとの?」
「いえ、どっちかと言えば、あゆみとの」
「あゆみちゃんとの、つながり?」
「ええ。あゆみは、私たちを特別あつかいしない。双子で、プラモデルが好きなんていったら、みんな興味だけか、無視するかだから」
「そっか」
「だから、あゆみには感謝してますし、頑張らないと、と」
思いがけず、ハートの立ち入り禁止エリアに入ってしまったようで、私は次の言葉が出せませんでした。
「ところで先輩」
「え、何?」
「チーム名なんですけど、何か思い付きました?」
「そう、ね……」
「私、ひとつしか思い付きませんでした」
たまおちゃんが不意に立ち上がって、口にした名前。
確かにそれが自然だなって、私も思ったのです。