SECTOR-6:KANADE-1

昇る朝日に、私は決めた。あゆみと、このみんなとで頑張っていくんだって。

夜明け前に目が覚めて、布団の中でモゾモゾしていたら、誰かが部屋を出ていく音が聞こえました。二人、それとも三人? 顔を合わせるのもバツが悪く、私は物音が止むのを待って目を開けました。
障子の向こう、夜が終わって朝になり始めている。日の出が近い。私は布団を這い出ると、浴衣の上にジャケットを羽織って、静かに部屋を出ました。
学校にかよい、勉強に生徒会に部活、そして帰って休んで、また次の日が始まる。そんな繰り返しから抜け出たときでないと、日の出なんてみる機会はないから。正面を出て駐車場へ行くと、箱根の山々の間から太陽が浮かび上がろうとしていた。
「きれいですね」
背中からかけられた声に振り向くと、Tシャツ姿のたくみがいたのです。
「あれ? 何しにきたの?」
「会長こそ! ボクはただ、朝の内に少し走っとこうと思って」
「へえ……そんなことしてるんだ」
ナイロンの短パンに、ランニング用のシューズ。いつものヘッドフォンは軽いイヤホンに交換してあるし、ソックスはくるぶしまでの短い形で、すねやふくらはぎがあらわになっている。そんな健康的な姿からは、「モケジョ」であることは想像できない。
「たくみは、どうしてプラモデルとか、ミニ四駆が好きなの?」
「どうして? いやあ、好きだから、としか答えようがないですけど……」
「それじゃあ、ミニ四駆部に来たのはどうして?」
すっ、とたくみの顔に薄暗いものが走ったけど、ほんの少しのことでした。
「あゆみが……」
一瞬いいよどんで、続ける。
「あゆみがうらやましかったから、ですかね?」
「うらやましい?」
「あー、うまく言えないんですけど、一歩、いや二歩くらい先を行ってるんですよ。ボクたちがキャラクターのプラモを作ったら、その時にはリアルなロボットを作ってるし、追い付いたとおもったら今度はミニ四駆」
たくみは私の横まで歩いてきた。昇る朝日が、晴れやかなたくみの顔を照らす。
「わかるわ。あのコが《ミニ四駆部》を作るって言ってきたときもそうだった」
「ナイショにしててほしいんですけど」
たくみが小声で言う。
「あゆみは……ボクのあこがれ、かも、です」
「ふーん」
いいことを聞いた、とつい私はニヤけてしまう。
「会長!」
「うん、わかってるよ。ホント、あのコはファンが多いわよね……」
ゆらゆらしていた太陽の輪郭がはっきりしてきて、強い光になっていく。そうするともう、直接は見ていられない。
「そういえば会長、チーム名なんですけど」
「ああ、なにか考えた?」
「はい、もう、いくつか思い付いたんですけど、これしかないなって」
たくみの考えた名前は、もともとこうだった、って思えるくらいに自然で、逆らえない強さがあった。
「うん、私も、それがいいと思う」
「ありがとうございます! じゃあ、ボクはひとっ走りして戻りますんで」
言い終わる前に、たくみは駆け出していた。照れ隠しなんだろうけど、ちょっと可愛かったよ。