SECTOR-4:TAKUMI-1

ナイトレージJr.の奇襲、
それにはそれなりの計算がある……ってたま姉が言ってる。

「どういうつもり!?」

猪俣センパイが思わず席をたつ。ボクもつられて立ち上がった。最初のチェックポイント、右に左にコーナーが続く区間を抜けたところで、先頭はナイトレージ、フレイムアスチュートが続いて、ボクたちのエアロサンダーショット、後ろにトップフォースEvo.が続いている。

「そういうことか」

たま姉が相変わらずの落ち着きっぷりで、ボソッと口にする。もちろん席には座ったまま。

「どういうことだよ、たま姉」
「ルール」
「ルール?」
「あの、たまおちゃん、もうちょっとわかりやすく教えてほしいんだけど……。」
「アタイたちに配られたバッテリーは」
「24セットだよ」
「それを超えたら」
「え? なんだっけ、3周のペナルティでしたっけ、猪俣センパイ」
「はっ、えーと確かそう……。そうでしたか!」

何だか二人ともトリックがわかったみたいで悔しい。

「だーかーら、それがどうしたっていうんだよ!」
「まだわかんないの、たくみ」
「えー?」
「バッテリーを全部使いきったときに3周以上のリードがあれば」
「ペナルティをもらっても前に出られるんですよ」
「はぁー?」

タブレットを見ると、早くも最初の一周が終わろうとしている。《スクーデリア・ミッレ・ミリア》は無理に追いかけないで、《レジーナレーシング》の逃げるのに任せている。差はもう2秒くらいに広がっていた。

エアロサンダーショットのすぐ後ろにはトップフォースの影。こっちも大径タイヤで飛ばしていきそうな感じだけど、無理に前に出るようなことはしないみたいだ。

スタートでのショックも、2周、3周と重なってくると薄くなってくる。ナイトレージは燃費を無視したペースで相変わらず走っていて、10分過ぎて10秒のリード。うまくいくようには思えない、思いたくないけど今のところ順調に先頭を走ってる。

フレイムアスチュートとエアロサンダーショットの差は2秒。後ろのトップフォースEvo.は1秒以内につけて、ここが2番手集団と言ったところ。

「そう言えば、温泉のコはどうなったかしら?」

猪俣センパイが言うやいなや、たま姉は素早くタブレットを操作して順位表を出す。

「18位」
「うん、そっか……ありがとう!」

ピットの向こう、あゆみと会長が陣取るピットウォールの先にある大スクリーン。ちょうど後の方の争いが映った。《チーム・メリーゴーランド》のベアホークRSは、前後をMAシャーシのスーパーカーみたいなマシンに挟まれてつらそう。

「うーん」

どうも、ボクは場の空気に飲まれてるみたいだ。わかっていてもできることはほとんどない。しょうがないんでもっともらしく、ボクは腕を組んだ。