SECTOR-5:TAMAO-1

ピットインがアタイらの仕事。
普通にこなして当たり前。落ち着いて、確実にやればいい。

「2周あとにピットインするよ!」

あゆみの声がインカムに響いた。
スタートから20分が経とうとしている。ナイトレージのリードは相変わらず。ただ、エンプレスやアタイたちが追っかけてこないところをみて、少しペースを抑えたようだ。
8時間を、配られたバッテリーのセット数=24で割ると、だいたい一時間に3回くらいが平均ペース。と思っていると、ピットインしてきたマシンがあることを告げるサイレンが鳴る。

「レジーナレーシング、入ってきたね」

会長が、確認の意味で全員に伝える。
シケインを通過したあと、最終コーナーのさらに内側を通るピットレーン。
ナイトレージのフロント、つり上がったライトが不機嫌そうにも見える。搭載するMSシャーシは、バッテリーの交換をするのにボディを外す必要がある。正確にはアタイや《女帝》のARシャーシだけが、シャーシ底のパネルを外すことでバッテリー交換ができるようになってる。
ただ《レジーナレーシング》のピットワークは軽快。バッテリー交換と各部分のチェックを、三人のメンバー……全員が川崎さんと同じようなゴスロリ風……が同時に行ってピットアウト。順位は10位にまで下がったけど、失敗はしてない。

「志乃ぶちゃん、すごい」
「センパイ、次はボクたちもやるんだよ」
「あ、そうだったね~」

そうしている間に何チームもがピットにマシンを呼び始めた。初めてのピット、バッテリーホルダーが開かない、向きを間違えてしまう、そういうトラブルが続発してる。

「ボックス、ボックス、ボックス!」
《Copy.》

あゆみの指示で、エアロサンダーショットはピットに呼び戻される。その背後には、ガンメタルのボディ、オレンジのカラーリング。

「《ショウナンナンバーズ》も同時!」

あゆみがうろたえる。が、

「気にしない! 集中!」

会長の一喝がとんだ。気持ちを切り替える。
エアロサンダーショットがピットに止まる。アタイたちの前にある《バーサス》端末のロックが外れ、パネルが開いてマシンがあらわれる。最初のとりきめどおり、アタイがマシンを取り上げ、パネルを外す。すかさずたくみが指を突っ込んでバッテリーをかき出す。と同時に猪俣センパイが新しいバッテリーを押し込む。最後にあたしがパネルを取り付けて、《バーサス》に戻す。

「よっし!」
「やった~」

たくみと猪俣センパイがハイタッチする中、アタイはピット出口の映像を見ていた。送り出したはずのエアロサンダーショットは、見えない。

「なっ……。」

一瞬早く、《ショウナンナンバーズ》はピット作業を終わらせてコースに復帰した。
アタイたちの順位は4位に落ちた。