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「あれ、早乙女ずは?」
放課後の生徒会室を見回して、あゆみは言った。

「今日からしばらく休ませてほしいって。自分たちなりに準備するから大丈夫、ってたまおちゃん言ってたけど」
「何でしょうね……」

部の備品、そしてルナの私物の《バーサス》端末が机の上に手際よく並べられていく。その脇にはそれぞれのマシンが置かれているが、二台のコペンの姿はない。

「こっちに戻ってきてから、どうにも調子が戻らないみたいだな」
「まあね……同じチームの、しかも涼川さんに周回遅れにされたってのは、さすがにこたえるわよね」
「会長! あたしをそんな害虫かなんかみたいに言わないでくださいよ」
「えっ? 虫?!」

あゆみの言葉を遮って、奏は急に立ち上がる。椅子が勢いよく後ろに倒れた。

「え、ちょっと、涼川さんやめてよ」
「会長……虫がお嫌いなんですか……?」
「あ、いや、そんなことはないわよ。私は、たまおちゃん、たくみちゃんのことを思ってね、思わずね」
「うん、わかった、すみませんでした、会長」

奏の肩に、あゆみが手をのせる。

「以後、気をつけなさい」

震える声でそう言いながら、奏はあゆみの手を払った。

「そういえば、さっき、たまおちゃんに《ホーネット》の事きかれたけど、何だったのかな?」
「《ホーネット》? ミニ四駆のですか?」
「ううん、そっか、ルナちゃんは行ってないんだね」
「行ってない? ミニ四駆のコースがあるんですか?」
「いいえ、私のおじ様がやってる小さなバーなんだけど、ミニ四駆好きが高じて自分で《バーサス》手に入れてお客さんに使わせてる変わったところなのよ」
「でもあんなおっさん一人でやってるところに、わざわざ行くかな?」
「うーん……それにたくみちゃんは別行動みたいだったし」
「二人とも、私たちに見られたくない何かがあるってことかしら……」

三人は腕を組んだ。《バーサス》は起動シークエンスを終えて、スタンバイ状態になっていた。