5

「うーん……」

たくみはホビーショップ「インジャン・ジョー」のミニ四駆コーナーで腕を組み、積み重ねられたキットの箱を凝視していた。一つに手を伸ばそうとして、止める。しばらく間が空き、また手を伸ばして抜き取ろうとするが、途中でとめて押し戻す。

「もー、いい加減いいんじゃねーか」

隣で腕組みした凛が、不満を隠そうともせずに言う。

「そもそもだ。『別々に考えてこい』っていう宿題を出した相手をだ。その翌日に呼び出して一緒に考えてくれってのはどういうことなんだよ」
「ちょっと、いま考えてるんだから」
「お前なぁ……」

凛は頭をかいた。

「どれで迷ってるんだよ」
「うーん……どれか、っていうとどれでもないんだけど、大体決まってるっていうか、うーん……。どう思う?」
「はぁ? 何言ってるんだか全然わかんねーよ!」
「そうだよなぁ……」
「お前、もう一人いないと本当にメンタル弱いんだな」
「う……」

たくみの手が力なく垂れさがる。そして、大きなため息。

「あーもー、しゃあねぇなあ……。シャーシは? 何がいいの?」
「え?」
「消去法だよ。答えてみろ」
「うーん…………」

長い間が空く。凛も口を挟むことなく、答えを待っている。

「ルナ先輩と同じ……MAかな……ひとりでメンテ用のパーツとなくて苦労してるし」
「よし、MAだな。じゃあ次!」
「え、もう?」
「そうだ、次はタイヤだ。大径とローハイト、どっちだ」
「ローハイトって、中径のこと?」
「あー、ややこしいな! 31ミリ径か26ミリ径、どっちなんだ!」
「そうだなぁ……」

再びの、長い沈黙。凛は顔面の神経が引きつっていくのを感じながらも、黙って腕を組んで待っている。

「やっぱり……」
「なんだ」
「あゆみみたいに、大径のバレルタイヤでぶっ飛ばしたいよな……こないだ抜かれたのは直線だったし」
「大径か。じゃあ、決まりだ」

凛は積み重ねられたキットの中から目当ての一つを引き抜くと、たくみに投げてよこした。

「これは……」
「これしかないだろ。そもそも大径バレルがついたMAシャーシのマシンなんて今ねーんだからさ。そのタイヤとホイールで我慢しな」
「これか……」
「なあお前、もうさ、いい加減一人で決めてみろよ。シャーシとタイヤ、聞いたのは俺だけどさ、それに答えたのはお前じゃねーか。だったら、その結論に自信持てよ」
「自信……」

たくみは手にした箱に描かれた、マシンの姿を見た。確かにMAシャーシ。そして足回りは大径、しかも本来であればオプションパーツである大径ローハイトタイヤを装備している。

「よっし、じゃあそのマシンでキッチリ仕上げてこいよ! 俺は腹減ったよ、じゃあな!」

凛はたくみを置いたまま、大股で店を出ていった。

「これが、ボクの、ニューマシン……」

ごくり、と、たまった唾がたくみの喉を通り過ぎた。