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《バーサス》のネットワークは24時間、常に解放されていて、日本だけでなく世界中のミニ四チューナーが《バーサス》端末を通じてマシンを走らせられるようになっている。それだけでなく、スマホやPCから閲覧モードでログインして、他のチューナーが走らせている様子を見学することもできる。見学者…ギャラリーの多いコースはSNSを通じて熱気が伝わり、有力チューナー同士が並走するとなると、さながら決闘のように衆人環視のもとでレースが行われることとなる。

「今日も早乙女ずは来てないんだな」

あゆみの言葉には力がない。二人が姿を見せなくなってから一週間。寮の部屋を訪ねてもいいのだが、悩んでいるところに押しかけても前向きな力がはたらくとは思えない。あゆみはそう思って、あえて何もしないことを選んでいた。

「会長は何か聞いてないですか?」
「え、あー、そうね、特には何も」
「そ、う、な、ん、で、す、かー?」

会長にルナが詰め寄る。

「へ?」
「先週、《ホーネット》について、たまおちゃんから聞かれたって言ってましたよね」
「うん、別に、場所を教えてあげただけだけど」
「その後、たまおちゃんがひとりで《ホーネット》に行ったの、知ってますよね?」
「え、そうなの? 知らなかった」
「知って……ますよね?」

ルナの瞳の奥に、奏が今まで見たことのない光が灯る。光ではない、黒い点。悠久の歴史の渦に吸い込まれそうな「闇」が、ゆっくりと姿をあらわしていく。

「うわっ、あっ、知ってる、ごめん、知ってた。知ってた」
「ありがとうございます」
「な、何だってー!」

あゆみも会長に詰め寄り、2対1の包囲網を作り上げる。

「で、《ホーネット》に何しに行ったんだ? お酒か? それとも……」
「たまおちゃん……なんで、そんな……」
「もう、ちゃんと話すから二人とも落ち着きなさい!」

奏も、トゥインクル学園中等部生徒会長としての迫力を吹き出して、場の空気を取り戻そうとする。

「あのお店の《バーサス》端末を借りに行ったのよ」
「《バーサス》を?」

あゆみとルナが同時に声を上げる。

「なら、ここにあるのを使えばいいじゃん」
「そういうわけにもいかないみたいよ。なんてったって、たまおちゃんとたくみちゃん、二人で別々に作ることになったらしいから」

奏の言葉を遮って、スマホが振動する。スワイプすると、《バーサス》運営からの通知メッセージだった。ギャラリーが大量に集まっているコースがあるという内容を見て、奏は顔を上げた。

「始まるみたい」
「何がですか」
「たまおちゃんとたくみちゃんの、直接対決」