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ホテルにチェックインし、荷物を各自の部屋に置いた後、出発までの間を使ってミーティングが行われる。

「なんでまた、私の部屋におしかけてきてやるわけ!」

シングルベッドの上に収まった四人に、奏は不満をぶつけるが意に介する様子はない。

「会長、時間がありません。ミーティングを始めましょう」

あゆみが政治家の口調を真似て言う。奏はその流れには付き合わず、手製のプリントを配った。和やかな雰囲気も、相手チームの情報がいきわたった途端に緊張したものへと変わる。

「それじゃ。今日の相手はキタキューシュー地区代表の《V.A.R.》。アルファベットだけのチーム名だけど、何の略かは明らかじゃない。チームは私たちと同じ5人。プロフィール欄には、軽音楽部でバンドを組んでるメンバーでもあるんだって」
「ふーん、バンドね」
「《ハッピーストライプ》みたい」

たくみとたまおが小声で言う。

「リーダーは新町純子さん。マシンは《アビリスタ》を使ってる。第一レースで勝ってるから、一気に勝負を決めにくるかもね」
「第一レースでの戦い方は、何か情報あるのですか?」

ルナが尋ねる。

「そうね、うーん……リプレイが残っているわけじゃないから何とも言えないけど、主催者がサイトに載せたレポートを見る限りでは、何というか、チームの5人がそれぞれのレースをしていて、あんまりチームプレイだとか作戦にこだわる感じじゃないみたい」
「それじゃあ、対策の立てようがないじゃん」

あゆみが、手を頭の後ろで組みながら言った。

「ただ、相手が5台でこっちも5台、その条件はそろってる。消極的なやり方かもしれないけど、1台ずつマークして、何かが起こったところで前に出るのが確実な方法だと思うわ」
「なーんか、相手のミスを誘うようなやり方で、面白くないですねぇ」
「まあ、負けられないから。仕方ないわ。それから」

奏が間を取った。

「たまおちゃん、たくみちゃん」
「はい」
「は、はい?」
「ニューマシンの準備、お疲れ様。期待してるけど、無理はしないでね」
「ありがとうございます」
「と、いう訳で、ミーティングを終わります。それと最後に。皆さん、私の個室なんだから、早く出てってくれる?」
「えー? なんでですか?」
「ここは本当に、居心地がいいのに」
「職権乱用だ! 横暴だ!」
「断固拒否」

四人がそれぞれに、言いたいことを言う。

「それはね……」

奏が一歩、ベッドに歩み寄る。

「ここが、私の個室だからです! 以上、解散!」