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「じゃあ、私はあっちだから」
「はーい、しーちゃん気を付けてね」
「だから、その名前で呼ぶなって!」

あゆみ達は地下街から、ナゴヤ駅前に戻ってきていた。日も高くなり、人通りもだいぶ増えている。ひとしきり立ち話をしてから、志乃ぶは目的地のライブハウスへ向かおうとしていた。
その時、重い排気音を鳴らしながら、一台のクルマがロータリーに進入してきた。黒いボディは丹念に磨き上げられ、周りのタクシーが自然と場所を空けてしまうような威圧感を放っていた。

「あれは……」

志乃ぶの記憶の片隅にある、黒いクルマのビジュアルがよみがえる。ルナとの帰り道に出会った、黒塗りの高級車。あの時、怖さに負けてひとりで逃げてしまった時から、ルナに対して正面から向かい合えなくなってしまった。そのビジョンが瞬間的に脳裏をよぎる。
黒いクルマはウインカーを出して停車する。後部ドアが開く。グレーのスーツに身を包み、サングラスをかけた男がふたり降りてくる。黒いレンズにはばまれて、その視線は見てとれないが、明らかにこちらへと向かってきている。
あぶない。でも、ここで逃げてしまったら、また同じことの繰り返し。志乃ぶは、談笑するルナの手首を突然つかんだ。

「何!? ちょっと!」
「ルナ、逃げるのよ!」
「逃げるって、何なの!」
「もう奴らがきてる!」

走り出した志乃ぶの勢いに飲まれて、ルナの身体が傾き、そのまま引っ張られてしまう。

「川崎さん! 何するの!」
「説明は後よ! あなたたちも気を付け……」

言い終わるよりも早く、志乃ぶとルナは駅前のビル街に消えていく。突然の出来事にあっけにとられる四人の近くで、サングラスにスーツの男ふたりが辺りを見回す。志乃ぶが「奴ら」と言ったのが彼らだとは気づかず、あゆみ達はエレベーターホールへと歩き始める。

「なんだかなー。とりあえず、チェックアウトしてからかな、ルナと川崎さんを連れ戻すのは」
「そうね。まったく、彼女、エキセントリックなのは見た目だけかと思ってたけど」
「会長、適当なところで、ルナ先輩のケータイに連絡してみては」
「あーあ、ナゴヤ観光したかったのになー」

チャイムと同時にエレベーターの扉が開く。フロント階から降りてきた利用客の中に、あゆみは見知った顔を見つけた

「新町さん!」
「あ、涼川さん、おはよう」

あゆみに気づいた純子が小走りで駆け寄ったその時、サングラスにスーツの男たちがあゆみと純子たちを目がけ、勢いよく走ってきた。あゆみは眼を見開く。

……これが、川崎さんの言っていた「奴ら」なの……?

身体は突然のことに、ピクリとも動こうとしなかった。