「さて」
六人分の布団が敷ける、広い和室。真ん中に置かれた座卓を囲んで、《すーぱーあゆみんミニ四チーム》に秀美を加えた六人が座っている。奏は全員を見回してから、ミーティングを始めた。
「今回、急に合宿をすることにしたのは、他でもありません。今月末に迫った《ミニ四駆選手権》の全国決勝に向けて、もう一度、チームとしての団結を強めたいからです」
奏の向かいには、秀美が座っている。
「決勝の特別枠は、秀美が引き受けてくれることになりました。チューナーとして、チームリーダーとして、私たちと比べ物にならない経験値を持っていると思います。でも、私たちも、これまで戦い抜いてきたことは事実です。自信をもって、力を合わせて、やっていきたいと思います」
奏は軽く、頭を下げた。
「じゃあ、部長の涼川さんから、何かある?」
「うーん、別にいう事はないんだけどさ……」
あゆみが、探るように言う。
「あたしたち泊まり込みで……何するんだっけ」
「……もう、そういうの治らないの?」
奏が、顔を赤くしながら抗議する。
「いやいや……」
楽しそうにふるまっていても、選手権の決勝に向けて気持ちが入らない。それがあゆみの現状だった。
《ライキリ・プロジェクト》によって開発されたハイパーカー。七年前の事故はなぜ起きたのか。アイリーンと次に向かい合ったとき、どんな言葉を交わせばいいのか。そして、父親に対してどう接すればいいのか。気が付くと、そんな思考のループにはまり込んでしまう。
あゆみの悩みを感じることもなく、奏は咳払いを一つしてから口を開いた。
「まあ、おさらいの意味も込めて、改めて説明するわ。
わざわざ合宿という形にした理由は三つあります。
ひとつは決勝で使用する2台のマシンを、誰のものにするかを、全員の意見を聞きながら決めたいから。ふたつめは、そのマシンを使っての練習をしておきたいから」
「練習? ここでできるんですか?」
たくみが、腕を組みながら言う。
「できるのよ、それが。詳しくは後で」
「はーい」
「そして三つ目は、さっきも言ったけど、チームとしての結束を強めたいから。ミニ四駆って体を動かすスポーツみたいに、直接ボールとかをやり取りしたりはしないけど、チーム内でコミュニケーションがうまくできていないと、絶対に勝つことはできません。」
「納得」
たまおの言葉が、説得力をもって響く。
「じゃあ、まずは最初の話題を……」
「の前に!」
納得したふりをしていたたくみが、飛び跳ねるようにして立ち上がる。
「まずは旅の疲れを、大浴場で洗い流すってのはどうですか?」
「私も、それがよろしいかと思います」
たくみに煽られるように、ルナが賛同する。
「え、ちょっと、とりあえず最初の」
奏の言葉に耳を向けながら、たくみは自分の荷物から入浴に必要なものを抱え込む。
「あっ、ちょっとたくみちゃん!」
無駄のない動きでたくみは部屋を出ていく。
「たくみちゃーん、ダメよー」
ルナは文字通りの棒読みでたくみをとがめながら、いつの間に用意した着替えを携えて部屋を出ていった。
「もう、この間もこうだったじゃない!」
「まあまあ、会長」
頬を真っ赤に腫らしながら悪態をつく奏を、あゆみがなだめる。
「秀美、見た? もう、いっつもこういう感じなのよ?」
同意を求めて見つめた奏を、秀美は笑った。
「まあ、止めようってのが無理なんじゃないか? あの子たちの元気を、わざわざ抑え込もうっていうのがもったいないさ」
「そうかしら」
奏は、浴場へ向かった二人に伸ばした手を戻した。すると、去っていったはずの足音が慌てて戻ってくる。ふすまが勢いよく開け放たれた。
「あれっ、早乙女の……弟ちゃん」
「弟じゃないって!」
秀美の冗談に、たくみがムキになって反応する。
「それより、赤井さん!」
「え?」
「赤井さんも入りましょうよ!」