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部屋に戻ると、案内されていた夕食の時間が近づいていた。食事は玄関ロビー近くの食堂が会場となるため、六人は慌ただしく身支度を整えて、部屋を出ていく。

「会長」

たまおが、奏に声をかける。使い込まれたスリッパの音が、けたたましく廊下に響いている。

「何?」
「さっきのミーティングで、ここで練習もやるって話でしたけど、食事のあとにやるんですか?」
「はっ」

正直、何も考えていなかったとは言えず、奏は沈黙する。

「なるほど」

正直、何も考えていなかったのだろうとは言えず、たまおは適当な相槌を打った。

「それはそうと」
「な、何?」

皮肉めいた言葉、辛辣な意見、そういったものを投げられたわけでもないのに、奏は明らかに動揺している。

「ここで練習って、どうやって」
「おおーっ!」
「すっげーっ!」

たまおの言葉を、あゆみとたくみの叫びがさえぎる。話の腰を折られ、ムッとしながら二人を探すと、食堂に向かう途中にあるラウンジに吸い込まれていくところだった。

「お二人とも、ちょっと」

ルナが呼び戻そうとしながらも、二人の後を追いかけ、同様にラウンジへ入っていく。
マッサージチェアや卓球台など、定番の娯楽用品を押しのけて、正面には液晶のディスプレイが五台設置されており、その下には見慣れた筐体が並べられていた。

「これ、バーサス……」
「まあ、そういうこと」

自分では何も説明していないのに、奏は得意げに言う。たまおはあきれた顔で奏を見るが、気にする様子はない。二人の背後にいた秀美がため息をつく。

「小田原さん、設備を充実させるとは言っていたけど、ここまでやるとは驚いたな」
「《バーサス》が目当てで、他エリアから泊まりにくるミニ四チューナーが増えてるらしいって聞いたわ」
「まったく、大したものだ」

秀美が感嘆の声をあげる。

「そう言っていただけると、そろえた甲斐があります!」

いつの間に後ろにいた、ゆのが弾けるような声で言う。

「お食事のご案内に、と思ったんですけど、皆さん、ご案内の前にいらして下さったんですね」
「まあ、食い意地は張ってるようだからな、このチームは」

皮肉めいた秀美の言葉に、奏はあいまいな笑顔しか返せない。あゆみとたくみは《バーサス》をベタベタ触りながら、設備を確かめている。直接手を伸ばしはしないものの、ルナも一緒になってのぞき込んでいる。

「ただ、食欲よりも、ミニ四駆に、レースにかける思いは強いようだ」

秀美が言う。

「ですね」

ゆのが笑顔で返した。

「ただ、もうお食事の用意は整っていますので。もうひとグループの方と一緒のお時間になってしまって申し訳ないのですが……」
「小田原さん、その、もうひとグループさんってどんなお客さんなの?」

奏が聞く。

「あれ、お話してませんでしたっけ? 皆さんと同じ、《ミニ四駆選手権》に出場されているチームの方ですよ?」
「えっ?」

不意を突いた答えに、奏は体をのけぞらせる。たまおと秀美は大して驚いた様子もない。

「まあ、これだけの台数の《バーサス》がそろっているところはそれほど多くはない。奏と同じようなことを考えるチームがあっても、おかしくはないだろう」
「確かに」
「ははは……さすが、赤井さんとたまおちゃんですね」

立ち話をしている四人のもとに、あゆみたちが駆け寄ってくる。

「ねえ、もうゴハンでしょ? 早く行こうよ」
「もーおなかすいたよー」

あゆみとたくみが、それぞれに言いたいことをまくし立てる。

「寄り道してすみません。小田原さん、行きましょうか」

ルナが頭を下げる。恐縮するゆのに促されて、六人は廊下を進んでいく。

「小田原さん、それで」

奏が尋ねる。

「私たち以外に泊ってるもうひとチームって、どこなの?」