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《すーぱーあゆみんミニ四チーム》のメンバーがラウンジに向かうと、すでに《フロスト・ゼミナール》の五人の姿があった。浴衣の女子中学生が集まり、傍から見れば温泉卓球でも始めるようにしか思えない。だが、彼女たちの間には張り詰めた空気が存在していた。

「待たせたな」

秀美が一歩前に出る。

「ああ、待ちくたびれた」

ソファに腰掛けていた蘭が立ち上がる。

「準備はできたかい、生徒会長さん」

あくまで挑発的な、蘭の態度に言葉を返したくなるが、奏は黙ってうなずくのみだった。

「いいだろう。二対二ということで、ウチは一年生の新志(あらし)が入らせてもらう。よいかな」
「新志久美子です! よろしくお願いします!」

小柄な少女が、甲高い声であいさつする。そのひたむきな態度に、奏も秀美もわずかに頬が緩む。

「では、この四人で始めようか」
「あの!」

突然響いた声に、全員が振り返る。

「小田原さん……」

奏が目を見開く。仕事着姿のままのゆのが、小走りでラウンジに入ってくる。

「無理なお願いですみません。《バーサス》、五台あるんで、私も一緒に走らせてもらえませんか」

ゆのが、蘭、秀美、奏と順番に見回す。突然の出来事に、どう返答したらいいかわからない。そんな沈黙が続く。それを破ったのは秀美だった。

「マシンは持ってきたのか」
「はい、これです!」

ゆのは、袖口に手を差し入れて、中にあるマシンを取り出した。
ホワイトの、のびやかな線でつくられた鋭いノーズと、後方に広がるフィン、そして特徴的なX字を描くフロントカウルが現れると、その場にいる全員がおお、と感嘆の声を漏らした。

「ジオグライダー、FM-Aシャーシです!」

マシンを見て、秀美が苦笑いする。

「そういうことか」

目が合ったゆのがほほ笑むが、事情のわかっていない奏は困惑する他ない。

「そういうことって?」
「ああ、小田原さんとは、カナガワ地区予選が終わった後もチューニングについてしばらくメールを交換してたんだが、奏とのレースの後、マッハフレームとFM-Aシャーシの事をずいぶん熱心に聞いてくるんでね」
「だって、赤井さんは私の師匠ですから。弟子が師匠と同じシャーシを使うのは当然でしょう」
「うむ、その通りだ」

秀美は蘭に向き直る。

「そういうわけで、いいかい、蘭」

ゆのの頭からつま先まで、まるでスキャンするかのように蘭の視線がはい回る。何かを理解したのか、ほう、とつぶやきながら首を数回、縦に振った。

「もちろん。プレイヤーの数は多い方が、より実戦に近い環境になるからな。歓迎するよ」

言いながら、蘭は《バーサス》のログイン操作を始める。

「そうと決まれば、早く始めよう。面白いことになりそうだからな」

蘭がいち早くバイザーを装着すると、久美子も慌てて後に続く。

「私たちも、行くぞ」
「う、うん」

秀美と奏が慌ただしく準備を進める。

「会長、あの」

あゆみが声をかける。奏の手が止まる。ほんの一瞬だったが、奇妙なまでに静かな時間が作り出される。

「お願いします」

そう言って、握りこぶしを奏に差し出す。

「お願いされたわ」

奏が軽く、自分のこぶしをタッチさせる。

「私も、チームのひとりだ。忘れないでくれ」
「あ……」
「頼むぞ」

秀美のこぶしは、やけに重く感じられた。振り向いて、二人は《バーサス》へのログイン手順を開始した。