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実車のニュルブルクリンク24時間レースの基本的な戦略は、一時間ごとにルーティーンのピットストップを行い、ドライバーの交代とマシンの状態確認を繰り返すかたちである。《バーサス》の場合はメインのオペレーターをドライバーに見立て、三人のメンバーが交代にコンソールを操作することになる。そしてピットではマシンのバッテリーを交換、タイヤをはじめとした各所のチェックを行い、必要に応じてセッティングの変更や破損個所の修理を行う。

《すーぱーあゆみんミニ四チーム》、エアロアバンテのスタートを務めた恩田選手は最初の一時間で前を行くシズオカ地区代表《ソレスタル・スクェア》のトライロング4号車をパスして18番手に浮上。そのままピットインして赤井選手にコンソールを譲った。一方のエアロサンダーショットは無理なオーバーテイクを避けて後方待機。最後尾のまま猪俣選手に交代する。

11番手から最後尾まで、各ブロック2位通過チームがひしめく中でエアロアバンテは積極的な走りを展開。その前方では、タイヤへの入力が厳しいSUV型のマシン、ヘキサゴナイトを駆るシコク代表《アール・フォーティーン》が二時間経過を目前にして急速なグリップ低下に襲われる。ピットストップまでタイヤを持たせるため、ヘキサゴナイト14号車・15号車ともペースダウンを強いられる。そのためヘキサゴナイト14号車は13番手から14番手へ、15号車は14番手から16番手にそれぞれ順位を落としてしまう。

《すーぱーあゆみんミニ四チーム》の2台は集団の中で他車とのアクシデントを避け、マシンをいたわりつつ周回を重ねる。赤井選手、猪俣選手とも当初の順位を守ったままルーティーンのピット作業を行い、エアロアバンテは早乙女たまお選手、エアロサンダーショットは早乙女たくみ選手にそれぞれ交代した。

たくみがコンソールに向き合ってから30分以上、メインの画面にはトライロング4号車のテールが大きく映し出されている。隙を見せようものならペースアップを命じていつでも抜ける態勢にはあるが、まだまだレースは始まったばかり、決して無理はできないことを、これまでの経験で理解していた。

「たくみちゃん、今のラップ、すこしペースが早かったみたい。まだおさえて、大事にね」

インカムを通じて奏の声が聞こえる。ピットウォールに位置するメインオペレーター席を離れて、オペレーター以外のメンバーはガレージに待機している。

「あっ、はーい」

返事をする声に、必要以上の緊張感はない。最後尾のため後方からのプレッシャーはなく、攻めているわけではないので前方マシンのブロックに悩まされることもない。

まずは操作と、このレースの雰囲気に慣れておく時間かと、たくみが首を回した時。

「あぶない!」

ルナの声が響き渡ると同時に、縁石をまたいで横向きになったグリーンの車体、ヘキサゴナイトの姿が飛び込んでくる。

「うわっ、よけろ!」
《Copy.》

とっさの指示でエアロサンダーショットは急減速、マシンを反対側に寄せる。だがその前方、17番手を走行していたオキナワ代表《ミヤラビの祈り》カッパーファング16号車と、シズオカ代表《ソレスタルスクェア》トライロング4号車が急ブレーキによって態勢を大きく崩す。

「たくみ、チャンスだ」

エアロアバンテを駆るたまおから、短いながらも力強い言葉が飛ぶ。

「オッケー、たまお!」

飛び散る砂利や、ボディパーツの破片を避けながら《すーぱーあゆみんミニ四チーム》の2台はベースアップし、メインストレートでそれぞれ先行車をパス。ヘキサゴナイト14号車が予定外のピットインを強いられたため、エアロアバンテは16番手、エアロサンダーショットは18番手にまでポジションを上げた。

ピットで時間を消費したヘキサゴナイト14号車が最後尾にまで下がった一方で、ヘキサゴナイト15号車は14番手を譲り受ける形でレースを進めていく。

後方で激しく順位が動く一方、上位陣はほとんど動くこともなかったが、三時間経過を前にして、ラウディーブル5号車がエアロマンタレイを射程圏内に入れようとしていた。