SECTOR-2:KANADE-1

ミニ四駆チューナーでも、生徒会長でもない、
一人の中学三年生になる瞬間……それは、「あれ」を口にする時……の、はず! なのに!

「はぁ……。」

食事のテーブルにたどり着いて、私は溜息をついてしまった。
あの、丸くてふんわりしてて、でも芯はしっかりしててスパイシーな、アレがない……。たぶん私たち女子中学生には似合わないと思われたんだろう。でも! それでも、私はアレがないと……。

「たこ焼き、ございませんね」
「はっ……ルナ、ちょ、何を言うの」
「だって、聞こえましたよ。『なぜだっ……たこ焼きがない……』って」
「はっ!」

私は反射的に右手で顔をおおった。

「まあ、たこ焼きがないならパスタを食べればいいじゃないですか」
「ぐぬぬ……。」

言葉の意味もわからないまま、不本意ながらナポリタンをよそって、お箸で食べる。つるるっ、と吸い込んだ途端に、ケチャップの甘酸っぱい香りが立ち上がる。……まあ、これはこれで許さないこともないけど。と、

「ルナ! あなたも意外ととしぶといわね!」

聞き覚えのある甲高い声。声の主は、ゴスロリ衣装にツインテール。

「あ、志乃ぶちゃん、あなたも予選とおったんだ」
「あったりまえでしょ! あなたたちみたいにまぐれで通ったんじゃなくて、わたくしを中心にした、強力なチーム力で決めたんだから!」
「そっか~、みんな頑張ったんだね!」
「むー!」

噛み合わない会話だけど、確かに川崎さんのチーム「レジーナ・レーシング」は選手ごとのタイムのバラツキが少なく、高いレベルで安定してる。もちろん、その究極は秀美たち「スクーデリア・ミッレ・ミリア」ではあるけど。

「せいぜい、わたくしのナイトレージを見たら道を譲ることね!」
「うん! あゆみちゃんに言っておく!」
「きー!」

そう言って川崎さんは人混みに消えていった。

「ルナ、平気?」

食ってかかるような川崎さんの言い方が、ルナの、いや、某国のプリンセスの気にさわったのではないかと、やや恐い。

「え、何がですか?」
「いや、さっきの川崎さん、あなたの動揺を誘おうとしてたんじゃないの?」
「え?」

ルナが、心底意外そうな顔をする。

「志乃ぶちゃん、私たちのことを喜んでくれてましたよ? 一緒に頑張ろうって。嬉しいです!」

あ、あー……。私にはそう聞こえなかったんだけどね……。。

「何にせよ、予選六番手だから私たちの近くでレースを進めることになるわね」
「そうですね~。志乃ぶちゃんのことだから、何か目立つようなことをしてくるような気がしますわ」
「確かに……」

ふとした拍子に、こうやって鋭いことを言うので、ルナからは目が離せない。それにしてもあゆみとたくみはどこにいったのやら……。