SECTOR-3:TAKUMI-1

食べるときはおいしく食べたいんだけど、
もーなんかいやだなー、こういうの! とりあえず好きなものだけ食べるよ!

何かを食べている間は、いろんなことを忘れられるんだ。だからボクは、色んなテーブルをめぐって、フライドチキンをつかまえ続けてる。
「あーっ! もう!」

少しでも止まると、悔しさが込み上げてくる。ボクが速いタイムを最初から出せていれば、たま姉も無理してクラッシュしないで済んだし、全体のタイム次第では1位になれたかもしれない。みんなが全力アタックしてたのに、慎重に走らせたボクだけが何だかおいてかれたようで悔しいんだ。
早足でたどり着いたテーブル。チキンはひとつだけ残ってる。迷わずに、マックスのスピードでボクはお箸を伸ばした!

「くっ!」
「なにっ!」

ボクの割り箸は、見えない場所から伸びてきたフォークに遮られた。でもボクの箸も相手のフォークに絡み付いていて、動きを封じている。

「それ、あたしがロックオンしてたんだけど」

フォークを持ってるのは、金髪のソバージュが印象的な、そう、予選三位であゆみと一緒に写真をとられてた、「ショウナンナンバーズ」のキャプテン、藤沢さんだ。でも、だからといって、ここで引いたらさっきの繰り返し。ボクは一歩詰め寄った。

「先にお箸を伸ばしたのはボクだよ!」
「そう? でもあたしのフォークが先に刺さってる」
「それはボクの箸を弾き飛ばしたからだろ!」

ボクは回りが静かになりはじめてから気がついた。予選上位チーム同士のトラブル、場合によっちゃ何かペナルティになるかも。そう思ったとき、どこからか伸びた手がチキンをつかみ、そして藤沢さんのフォークから引っこ抜いた。

「たくみ、行儀悪いよ」

たま姉はそう言って、争いの火種を一口で食べてしまった。

「あー!」
「ははは! 面白いね、あんたたち」
「あんたじゃない! ボクらはすーぱーあゆみんミニ四チーム、早乙女たくみと」
「たまお」
「だ!」
「ああ、あのコペンでクラッシュしたコか!」
「それはこっちのたま姉! ボクだって走ってたよ!」
「ふーん、なるほどね。気に入ったよ、あんたたち。でも、軽自動車のマシンじゃ、この先厳しいかもよ。じゃあね」

フォークに挟まったお箸をボクに返して、藤沢さんは別のテーブルへ歩いていった。

「結局チキン食べれなかった……。」
「肉ばっかだと太るよ」

たま姉はそう言って、口に入れた鳥の骨をバキバキと噛み砕いて飲み込んでしまった。ちょっと怖いぜ……。